伊藤健太郎の“子供っぽさ”は大きな武器だ 『光る君へ』双寿丸がとにかく愛らしい理由

伊藤健太郎の“子供っぽさ”は大きな武器だ

 だが普段は長所として機能している彼の「子供っぽさ」を、短所として扱っている作品もある。阪本順治監督の『冬薔薇(ふゆそうび)』(2022年)がそれだ。彼が演じる淳は、専門学校にもろくに行かず、半グレの下っ端をやりながら、友人や彼女から金をせびってダラダラと生きている。常に他責思考のクズであり、誰からも愛されない。自分勝手で甘ったれの子供のまま、大人になってしまった人間だ。

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 乱闘シーンもあるが、他作品と違って爽快感はない。ある種のすがすがしさを感じる不良学生たちのケンカと違い、半グレのケンカには陰惨さしかない。それどころか、命まで取ってしまう。淳も、ビビりながら戦った末に足を折られる。双寿丸や伊藤真司の気持ち良さは、微塵もない。

 物語のラストも、少し成長したかに見せておいて、やっぱりクズのまま終わる。「ダメなヤツはどうあがいてもダメ」という、シビアな現実を見せつけられる。阪本監督は、謹慎していた時期の伊藤健太郎とじっくり話をした上で、この作品の脚本を書いた。彼の「子供っぽさ」が醸し出す“負”の部分に、着目したのだろう。

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 救いのない物語ではあるが、この作品を経て、俳優としての彼は大きな成長をしたように思う。子供っぽさが持つ、“正”の部分だけでなく“負”の部分まで、表現できるようになったのだから。おかげで本来の“正”の子供っぽさも、双寿丸を見る限り、よりパワーアップしたようだ。

 このまま双寿丸と賢子の身分違いの恋の成就を願いたいところだが、そう上手くはいかないのが、大河である。双寿丸は数年の後、「平安時代最大の侵略戦争」を戦うことになる。「刀伊の入寇」だ。1019年、「刀伊」と呼ばれる中華系海賊集団が、九州を襲撃する。迎え撃つのは、あの藤原隆家(竜星涼)や、配下の平為賢(神尾佑)ら。そのまた配下の双寿丸も、当然駆り出されるだろう。

 実在の人物である隆家や為賢がこの戦いの末にどうなるのかは、史実を見ればわかる。だが、オリキャラである双寿丸の命運はわからない。直秀の悲劇を思い出して仕方ないのだが、賢子が号泣するような展開は勘弁してもらいたい。あとはもう、脚本・大石静の胸先三寸である。

■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK

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