松本若菜の“表情”に込められた情報量に圧倒される 『わたしの宝物』で“松本劇場”の再来か

『わたしの宝物』で“松本若菜劇場”の再来か

 松本若菜が主演を務めるドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)が10月24日、第2話を迎える。衝撃の初回放送から早くも1週間が経過し、激しく心がざわついたまま、この期間を過ごしたのは私だけではないだろう。

 これはおもに物語の展開に対するものだが、話数を重ねるたび、これを体現する俳優陣にも注目が集まっていくことになると思う。いまはやはり、主演の松本が気になってしょうがない。

 本作は、夫以外の男性との子どもを夫との子だと偽って産み育てる、「托卵(たくらん)」をモチーフにしたもの。“大切な宝物”を守るために悪女になることを決意したひとりの女性、その夫、そして彼女が愛した別の男性ーーこの三者の感情がもつれ合うさまを描く恋愛ドラマだ。いや、番組の公式サイトには“愛憎劇”と記されている。第1話の時点では、作品全体を覆う重苦しさと、ときおり感じられる温もりや柔らかさが印象的だったが、これから一気にシリアスなドラマとして突き進んでいくのかもしれない。

 そんな作品で松本が演じるのは、主人公の神崎美羽(松本若菜)。夫の宏樹(田中圭)は大手商社に勤める優秀で人当たりのいい“理想の夫”だが、それは表向きの姿で、家庭内では美羽に辛辣な言葉ばかりを浴びせる“モラハラ夫”だ。そんな夫との日々に身も心も疲れ切っていたところ、中学時代の幼なじみである冬月稜(深澤辰哉)と再会。一夜をともにしてしまい、その身に彼の子を宿してしまう。そして美羽はお腹の子を「宏樹の子」だと偽って出産し、育てることを決意するのである。

 第1話の展開を要約してみたが、文字だけ見るとたしかにシリアス全開のドラマだ。けれども先述したとおり、重苦しいのと同時に、本作には温もりや柔らかさがある。夫役の田中圭が人間味の欠けた演技に徹しているのに対し、松本は対照的な演技を展開していた。モラハラキャラを体現する田中の一歩一歩は重く、吐き出すセリフはどれも松本の足元に落ちる。対する松本は、美羽の明るく前向きな性格を声と身体とで表現していた。が、これは人が壊れてしまう直前の状態を表現していたのかもしれない。美羽が発する情報もまた、真っ直ぐ宏樹に届くことはなく、空中をさまよっていたように思う。

 ふたりのやり取りに対する感覚的な印象を言語化してみたが、あながち間違っていないのではないだろうか。深澤辰哉が演じる冬月稜を前にしたとき、松本の演技は変質していたからである。つまりそこでの美羽は地に足がつき、彼女が発する情報は真っ直ぐに冬月稜に届いていた。結果としてふたりが結ばれたのは、自然といえば自然の流れのように思えるのだ。

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