『ラストマイル』塚原あゆ子監督が語り尽くす 今後の“シェアード・ユニバース”の可能性は?

塚原あゆ子監督が語る『ラストマイル』の裏側

 8月23日の公開から45日間で観客動員358.4万人、興行収入51.2億円を突破するなどロングヒットを続けている映画『ラストマイル』。10月4日から31日までの期間限定で、監督の塚原あゆ子、脚本の野木亜紀子、プロデューサーの新井順子による製作裏話・小ネタ満載の副音声上映もスタートした。

 『アンナチュラル』(TBS系)、『MIU404』(TBS系)と同じ世界線で展開する“シェアード・ユニバース”を実現させた立役者の1人である塚原監督に、『ラストマイル』が生まれた背景や今後の“シェアード・ユニバース”の可能性、そして塚原監督自身の“願望”について話を聞いた。

『アンナチュラル』と『MIU404』が『ラストマイル』で“復活”した背景とは

ーー『ラストマイル』の製作が発表されたとき、『アンナチュラル』と『MIU404』の世界と繋がるという設定に驚いたのですが、そもそもどういう経緯で今回の企画が実現したのでしょうか?

塚原あゆ子(以下、塚原):野木さんと飲みに行ったときに、「私が(脚本を)書くから撮りなさい。映画をやったほうがいい」みたいなことを言われて、「じゃあやってみるか」とプロデューサーの新井に相談したのがスタートでした。

ーー『ラストマイル』がドラマではなく映画だったのは、それが理由ですか?

塚原:そうですね。「『アンナチュラル』と『MIU404』と繋がるシェアード・ユニバース・ムービーを作ろう」と思ってスタートしたわけではなく、題材も何も決まっていない段階で「映画をやろう」となったところから、結果的にシェアード・ユニバース・ムービーになりました。

ーー『アンナチュラル』では法医学、『MIU404』では機捜を描いていましたが、『ラストマイル』では「物流」がテーマになっています。

塚原:野木さんに「何をやりたいの?」と聞かれて、物流をやりたいなと思ったんですよね。コロナ禍を経て、私自身より気軽に“ポチる”ようになったので、物流が止まってしまったらものすごく困るなと。そんな自分の怠惰さに「どうなんだろう?」と自問自答していました。そこから「送料無料ってよく考えたらおかしいな」とか「発送元を見ずに開けちゃってるな」と考え始めたのが最初のきっかけでした。

ーーそのアイデアをもとに野木さんが脚本を書かれたと。

塚原:ものすごく調べられていましたね。ただ、ドラマのときも毎回そうなんですけど、「で、これどうすんの?」という感じなんですよね(笑)。

ーー実際問題、脚本通りに撮るのが大変ということですよね(笑)。

塚原:その通りです。「言い出したのは私だからやるけどさ……」みたいな感じで(笑)。わあわあ言い合いながら楽しんでやっています。

ーー野木さん、新井さんとの黄金タッグの間でも、やはり意見が衝突することもあるんですね。

塚原:でも深刻な喧嘩とかはなく、軽い“言い争い”みたいな感じです。「こうしたほうがいいんじゃない?」と言われたり、「これはダメでしょ」と怒られたり……。でも、野木さんも新井さんも尊敬しているので。一緒に仕事をするときはそういうリスペクトが大事だと思います。

ーー『アンナチュラル』と『MIU404』と世界線が繋がるというアイデアはどこから出てきたんですか?

塚原:それは流れで自然にそうなりました。『MIU404』の時点ですでに『アンナチュラル』と繋がっていたので。野木さんの中ではもっと前からそういうアイデアがあったのかもしれません。

ーー『アンナチュラル』と『MIU404』は続編を望む声も多かったですが、「シーズン2」みたいなことは考えなかったんですか?

塚原:私も野木さんも新井も、10話~11話で収めるために語るべきことを全部詰め込んでいるんですよね。なので1回閉じたものを開くためには、そのドラマのフォーマットで語るべきことが揃ったときかなと。続編ありきでやろうとすると、「シーズン1は良かったのにシーズン2は……」みたいなことになりかねないので。そういう意味では、『ラストマイル』でこういう形で『アンナチュラル』と『MIU404』のみんなとまた会えたのは本当に嬉しかったです。

ーー映画を観る前はカメオ出演程度かなと思っていたのですが、意外とみなさん出演シーンが多くて驚きました。とはいえ、それぞれのキャストが絡むことはなく、絶妙な塩梅だなと。

塚原:無理にやろうと思えばいくらでもできるんですけど、『アンナチュラル』のみんなも『MIU404』のみんなも、それぞれの作品の世界線を壊してまで参加したいとは思わないでしょうし。出るべくして出るところにしか出てこないのが、野木さんっぽいですよね。機捜(機動捜査隊)が最後まで物語を締めるなんてことは現実的ではないから、毛利(大倉孝二)さんと刈谷(酒向芳)さんが出てくるっていう。みんなはもっと掛け合うシーンが欲しかったとは言っていましたが……六郎(窪田正孝)だけ得してましたね(笑)。

――『アンナチュラル』にも『MIU404』にも『ラストマイル』にも、それぞれの作品のトーンがあるわけじゃないですか。それを一つの作品の中で成立させるのって相当難しい作業だった思うのですが。

塚原:私の中で、『アンナチュラル』と『MIU404』は演出方法や音楽のタッチが結構違うんですよね。『MIU404』は事件を扱うので、どうしても硬く、苦しくなりがちで。だから、私も伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)の軽妙さに助けられているんです。本当に綾野さんと星野さんの力ですけども、そういう背景もあってポップに仕上げています。『アンナチュラル』は逆で、話のテンポは軽妙だけれども、ご遺体に対する尊厳や真摯な気持ちが必要なのであまり軽くはできなかった。その2作をどうこの作品にマッチングさせるかは悩みましたが、結局今回は『ラストマイル』の話なので、満島(ひかり)さんと岡田(将生)さんに合わせていく方向で仕上げていきました。満島さんと岡田さんからスタートして、ディーン(・フジオカ)さんと阿部(サダヲ)さん、そして最終的に火野(正平)さんと宇野(祥平)さんがいる。それぞれの色の中に『アンナチュラル』と『MIU404』のチームがいるという感じですね。『ラストマイル』が一番バラバラな世界なんですけど、米津玄師さんがうまく締めてくれたので、映画にしてよかったです(笑)。

ーー『アンナチュラル』も『MIU404』もそうでしたけど、観客が観終わってからいろいろと思考を巡らすような作品になっています。

塚原:満島さんが、もう1回観たら印象が違ったと言っていました。“犯人は誰なのか”に揺らされるところもあるんですけど、物語の中心はそこではないんですよね。すごく多重構造の脚本なので。1回目はキャラクターを楽しんでもらって、次はストーリー楽しんでもらって、最終的にはこの作品で描いている世界と自分自身を繋げていただけると最高かなと思います。

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