『滅相も無い』は演劇と映像の垣根を超える “全員主役級”のキャストが紡ぐ独創的な物語

『滅相も無い』は演劇と映像の垣根を超える

 あの話題作にして問題作が、あなたのプライベート空間に現れるーー。そう、ドラマ『滅相も無い』(MBS/TBSドラマイズム)のことだ。本作のBlu-ray BOXが10月2日に発売開始された。本作に集まったのは、中川大志をはじめ、上白石萌歌や窪田正孝といった“全員主役級”の俳優陣。彼ら彼女らが織り成す“巨大な穴”をめぐる独創的な物語を、いま再び楽しむことができるのである。

 本作を手がけているのは、演劇領域においても映像領域においても稀代の才能の持ち主として知られる加藤拓也だ。ドラマ作品としてはこれまでに『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)や『死にたい夜にかぎって』(MBS/TBSドラマイズム)などの脚本を手がけ、2022年に映画『わたし達はおとな』で長編劇場デビューを果たし、翌年には長編第2作目となる『ほつれる』を発表。「劇団た組」の主宰として数々のオリジナル演劇作品を精力的に発表し続け、2023年には『ドードーが落下する』で第67回岸田國士戯曲賞を受賞した。日本のエンターテインメント界の最前線に立つ存在である。

 そんな彼が『滅相も無い』で描くのは、先述したように日本にとつぜん現れた7つの“巨大な穴”をめぐる物語だ。舞台は私たちが生きる現代の日本社会。穴の出現に人々は混乱し、さまざまな調査がなされるが、この穴がいったい何なのか、いつまで経っても解明はされない。そうしていつしか穴と人類との共存がはじまり、その中へと入っていく者たちも現れることに。

 しかし、穴から帰ってきた人間は誰もいないのだという。やがて穴を神だとする小澤(堤真一)という男が登場し、「穴の中には救済がある」と人々に説く。穴を信仰する彼のもとに8人の信者が集い、ここから物語がはじまるのだ。そう、これはエポックメイキングなSFヒューマンドラマなのである。

 この物語の登場人物たちは、社会生活を送るうえで、ある種の“行き詰まり”のようなものを抱えている状態にある。果たして本当にあるのか分からない穴の中の救済を求めているくらいなのだから、当人にとってはそれなりに苦しい問題なのかもしれない。そしてこれらをみんなの前で話し、記録しなければならない。それが小澤の説く、穴に入るためのルールだ。

 たとえば、中川が演じているのは、“怒れない川端”というキャラクター。その名から推測できるとおり、彼は他者に対して怒りの感情をうまく伝えることができない。それがフラストレーションとなって、心の澱になっている。彼はそんな幼い頃からの自身の半生を語るのだ。

 これは私たちも非常に共感できるエピソードなのではないだろうか。嫌なことがあっても笑顔でやり過ごしてしまい、フラストレーションを抱えてしまっている人は少なくないだろう。しかし、私たち一人ひとりが溜め込んでいる心の澱というものはそれぞれ違う。生まれも育ちも違うのだから。

 たとえば、染谷将太が演じる“思い出す菅谷”が語るのは、初恋の相手との運命にまつわるエピソードだし、上白石が演じる“田舎暮らしの松岡”が語るのは、同姓同名のふたりの「原幸恵」という人物との出会いについて。窪田が演じる“夢うつつの岡本”はみんなの話を書き留める記録係でもあり、そんな彼は大人になってからも覚えている、小学生の頃に見た夢について語るのだ。

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