『虎に翼』は視聴者にとっても“私の物語”だった 最終回で伊藤沙莉が投げかけた問い
法律家として、女性として、さまざまな不条理や理不尽と闘い続けた寅子(伊藤沙莉)たちの物語『虎に翼』(NHK総合)が9月27日に最終回を迎えた。
『虎に翼』は、ないものとして扱われるマイノリティー側の人々を描く主張・メッセージ性とそれを朝ドラとしてエンターテインメントに落とし込んだ、挑戦的であり、今の時代に放送すべきドラマであった。「さよーならまたいつか!」に乗せて、これまでの全130回を振り返っていくような、ラストのタイトルバックを観て、改めてそのことを感じ入った。
最終回は平成11年(1999年)、寅子が亡くなって15年が経った星家からスタートする。主人公としての立場にいるのは優未(川床明日香)。自宅で着付けや茶道教室、雀荘と寄生虫研究の雑誌の編集、そして花江とそのひ孫の面倒を見る生活を送っている。
今も団子の味が守られている「笹竹」での撮影が実際のモデルとなった神田にある「竹むら」で行われていたり、そのほど近くにある水道橋での外ロケ、携帯電話の登場など、時代の移り変わりに驚きを覚える。同時に、平成を舞台にした次の朝ドラ『おむすび』へのバトン(『おむすび』は2002年からスタート)のようにも思えるが、筆者が思い起こしたのはその後の時代を生きる人々が語り部として登場した2023年度前期朝ドラ『らんまん』の最終週である。
イマジナリー寅子がまるで生きているかのように(冒頭の「連続テレビ小説」の遊びに笑ってしまった)、元気に優未を見守るため、語り部としての役目は少ないかもしれないが、優未は自分の中に母親がいることを実感する。当日にクビを言い渡された美雪(片岡凜)を見かけ、見ず知らずの他人であるにもかかわらず、労働基準法に雇用主の解雇予告義務があると弁護士を紹介した優未。困っている人に寄り添うという行為に、寅子から受け継いだ精神が伺える。
物語は寅子の「ねえ、みなさんにとって法とは何かしら?」という投げかけでラストを締めくくるタイトルバックへと突入していくが、優未にとっての法は母親だった。「近くに感じる。感じると心が軽くなる。み〜んなの中にあって寄り添ってくれるものなんだよなって」と航一(岡田将生)に秘密の話として打ち明ける。
優未の言う通りに、法とは本来誰しもを守り、寄り添ってくれるものだ。けれど、『虎に翼』を象徴する憲法第14条が示す「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」は、『虎に翼』の先の未来で生きる我々の令和の時代においても守られているとは言い難い。憲法第14条は希望でありながらも、世の中を映す絶望の鏡であることを炙り出したのが『虎に翼』というドラマでもあった。