伊藤沙莉こそ真の国民的俳優である 『虎に翼』で生き続けた、社会が求めたヒロイン像

『虎に翼』伊藤沙莉こそ真の国民的俳優だ

 数々の名作をバイプレイヤーとして脇から支え、ときに主役として作品の看板を背負ってきた伊藤沙莉は、かねてより多くの人々にとって国民的俳優として認識されていたことだろう。けれども朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)という傑作を半年にわたって仲間たちとともに率いてきたいま、彼女が真の国民的俳優であることに誰も異論はないはずだ。彼女はそれだけのことを、この作品でやってのけたのだから。

伊藤沙莉、『虎に翼』撮影を終えて 「寅子でいられて、本当に幸せでした」

NHK連続テレビ小説『虎に翼』が9月27日(9月28日は1週間の振り返り)に最終回を迎える。放送を前に、主人公・寅子を演じた伊藤…

 伊藤は子役時代からキャリアをスタートさせ、人生の大半を俳優として過ごしてきた存在だ。かつて朝ドラは「新人女性俳優の登竜門」と呼ばれていたもので、たしかに朝ドラへの出演を機に飛躍し、大成した者は少なくない。まだキャリアの浅い者にしか発することのできない演技の瑞々しさは、大志を抱いて一歩ずつ進んでいくヒロインの姿と重なり、私たち視聴者は彼女(ヒロイン=演じる俳優)らのことを応援せずにはいられなくなるものだった。

 しかし、扱うモチーフやテーマによっては、やはりまだ経験値の低い俳優が主演では心許ない。劇中でヒロインが成長するのに比例して演じる俳優の力も上がっていくわけではないのだ。この主演俳優の力不足を周囲の者たちが補うことで生まれる美点もあるわけだが、ここでその話は置いておく。つまり、作品によってはどうしたって実力のある演技者が求められることになるわけだ。『虎に翼』の概要と主演が伊藤沙莉であることが発表されたとき、誰もが大きく頷いたに違いない。

 伊藤はいまから7年前に放送されていた『ひよっこ』(2017年度前期)ではじめて朝ドラに出演。同作は将来を嘱望される若手俳優たちが名を連ねたもので、いまでは誰もがエンターテインメントシーンの第一線に立っている。そのうちのひとりが伊藤だったわけだ。事実、視聴者層がほかのどんな作品よりも朝ドラは幅広い。それまでにもさまざまな作品で主要な役どころを務めることもあった伊藤だが、『ひよっこ』で彼女の存在を知り、その頭抜けた芸達者ぶりに魅せられた人はかなり多いことだろう。

 その後は『寝ても覚めても』(2018年)やNetflixシリーズ『全裸監督』といった話題作で支柱となるような重要な役どころを担い、『タイトル、拒絶』(2020年)、『ちょっと思い出しただけ』(2022年)などの主演作を得てきた。参加する作品のジャンルも規模間も演じる役のタイプもバラバラ。何作品かだけでも観れば、誰だって彼女の圧倒的な力の大きさに気がつくはずだ。毎話放送されるたびに反響を呼んだ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)でナレーションを担当していたのは作り手たちから信頼されている証だろうし、舞台作品での彼女のパフォーマンスに触れれば肌で感じることができる。 そう、優れた演技者だけが持つ力を。

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