『ジョン・ガリアーノ』がドキュメンタリーとして獲得した“映画的なカタルシス”とは

『ジョン・ガリアーノ』のカタルシスとは

 本作の後半は、起こしてしまった一連の問題について、どのように贖罪していくかがテーマになる。その贖罪の過程にあわせて、本人の表舞台への復帰ーー具体的にはマルジェラのクリエイティブ・ディレクターに起用されていく様子が映される。人生の頂点から絶望までを経験した人物が、心を入れ替え新たなスタートを切る。その過程や悩める姿を映したカットに映画的なカタルシスが大きく生まれるのは事実だ。

 しかし一方で、キャンセルカルチャー的な問題提起をしつつその終わり方をするのは、ちょっと目線がガリアーノ寄り過ぎないか? とは思った。それこそが存命の人物を取り扱う作品の難しい点でもあるのだろうが。

 ただ、そういった疑問点はありつつも、やはり映画としてよく練られた作品であることには間違いない。そして本作にはお笑い芸人・四千頭身の都築拓紀が秀逸なコメントを寄せている。

僕は、天才を見ると、正直萎えます。自分よりセンスのある人間が自分より辛い人生の中で自分より努力をしています。故に天才です。故に、萎えます。もちろん、ジョン・ガリアーノも例外ではありません。でも、少しだけ常識の内側にいる瞬間や、良くない外れ方をする人物像にどこか安心してる自分もいました。約2時間、天才を眺めてます。結構萎えます。帰宅道、なぜか仕事を頑張りたくなってます。そんな日に限って、翌日は休みです。(公式サイトより)

 私には感想としてこれ以上のことは言えそうにない。暑い日も寒い日も、風が強い日も、仕事をやり続けていくしかない。ガリアーノの生き様は、それでも自分の心の奥底に響いた。

■公開情報
『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョン・ガリアーノ、ケイト・モス、シドニー・トレダノ、ナオミ・キャンベル、ペネロペ・クルス、シャーリーズ・セロン、アナ・ウィンター、エドワード・エニンフル、ベルナール・アルノー
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
2023年/イギリス/英語・仏語/116分/カラー/ビスタ/原題:High & Low - John Galliano/字幕翻訳:チオキ真理
©2023 KGB Films JG Ltd
公式サイト:jg-movie.com

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