武道家がアニメ『ザ・ファブル』の戦闘シーンを解説! 原作愛に溢れた声優陣の名演も必聴

 伝説の天才殺し屋・通称“ファブル”が、ボスから「1年間誰も殺してはならない」という突然の指令を受ける。“ファブル”を大阪の武闘派組織・真黒組に預けるボス。当然トラブルに巻き込まれまくるファブル。“ファブル”改め佐藤明(仮名)は、果たしてプロの殺し屋からプロの普通になれるのか!?

 実写映画化もされた南勝久の人気漫画『ザ・ファブル』が、アニメになって帰ってきた。原作の面白さはアニメでも健在、いやむしろ2クールで描かれるからこそ、細部までじっくりと楽しむことができる。

 まず明を裏社会の組織に預けた時点で、「このボスは明に普通の生活を送らせる気ゼロだな。トラブルに巻き込ませる気満々だな。というか、楽しんでるよね?」と思っていた。だが、いざ明がトラブルに巻き込まれると、預かり役である真黒組若頭・海老原に対し、「なぜ明を巻き込んだ?」と脅すのである。ランボーナイフを突き付けて。8:2でボスが悪い。

 とはいえ、このボスの預け先のチョイスのおかげで、物語がとてつもなく面白くなってしまった。田舎の農家とかに預けてくれなくて良かった。「殺していいならすぐ済む」案件を、殺さないように切り抜ける明を見るのが、毎週土曜日の楽しみである。未見の方にはぜひ観ていただきたい。

 4月から放送開始したTVアニメ版『ザ・ファブル』(日本テレビ系)は、岡田准一師範の実写映画版で言えば、第1作目はすでに終わり、第2作目『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』に該当する部分まで話が進んでいる。

 しかし、まだ遅くはない。うまいことBlu-rayのVol.1が、9月25日に発売されるのだ。なんてベストなタイミング。新鮮な気持ちで第1話から観ることのできるあなたが、大変うらやましい。事実、このVol.1に収録されている第1話~第7話を観れば、いかに佐藤明が超一流の殺しの天才なのかがわかる。

 第1話において大阪に到着した明は、いきなり車上荒らしのチンピラ2人に絡まれる。その2人を手刀とハイキック1発ずつで、一瞬で制圧する。ともに加撃箇所は喉元である。喉を狙うという点が、また渋い。アドレナリンが出ている人間を戦意喪失させるには、それ相応の痛みを与えなければならない。その種類の痛みを与えるなら眼球がもっとも適しているが、ダメージが重篤すぎる場合がある。

 明の技量なら、その手刀やハイキックで失神させるのも可能だろう。だが、路上の戦闘での失神が危険なのは、意識がないために受け身を取れずに頭から地面に倒れ込むことだ。路上のケンカでの死亡事故は、このセカンド・インパクトに寄るケースが多い。

 その点、喉であれば失神はしない。うずくまるだけなので、頭も打たない。激烈に痛いので、戦意をなくす。だがダメージも大きすぎない。また喉に直撃を喰らうのは、戦闘レベルの低い人間である。戦闘レベルが中級以上であれば、戦闘時には自然に顎を引く。明は相手の戦力を一瞬で読み取り、目の前の2人が中級以下であると判断したのであろう。

 続く第2話において、明は真黒組構成員・高橋の舎弟2人組に絡まれる。第1話で“仮の妹”・洋子に怒られたこともあり、今度はわざとやられる。しかしそのやられ方にさえ、天才的な格闘スキルを見せつける。

 まず1人目(素人)の大振りパンチをわざと額で受け、相手の拳(握りが甘いため、正確には指)を破壊する。言わば拳を狙った頭突きである。拳というものは鍛えれば硬くはなるが案外もろく、そして頭蓋骨は恐ろしく硬い。グローブをはめているならともかく、素手で頭蓋骨を殴れば、壊れるのは拳の方である。

 筆者も、同じパターンで拳を骨折したことがある。ただの練習でのスパーリング中でアドレナリンも出ていなかったため、死ぬほど痛かった。大の男が叫び声を上げてうずくまるぐらい痛かった。人生でいちばん痛かったかもしれない。長男じゃなければ泣いていた。それほど頭蓋骨は硬い。実戦を熟知し切った明は、だから基本的に拳は使わない。使うのは、手刀、掌底、一本拳(中指第2関節による打撃)などである。狙う箇所も、喉や首筋、胴体部分だ。

 続く2人目はキックボクサー、格闘技経験者である。彼は、「ムエタイ」と言われるたびに「キックっす」といちいち訂正する。自分の競技にプライドを持っているようで、筆者的には好感を持っている。後に、「実はいいヤツ」であることもわかる。

 とはいえ、この時点では明に絡むタダのチンピラである。明にいきなりのハイキックを放つ。明、またもやわざと受ける。スリッピング・アウェーで衝撃を逃がしながらである。

 スリッピング・アウェー。相手の打撃と同じ方向に顔を背けたり回転させることにより、衝撃を逃がす、“超”高等テクニックである。元WBC世界スーパーフライ級王者・川島郭志が得意とした。

 またもや筆者の経験談で申し訳ないが、このスリッピング・アウェーも体感したことがある。いや、しょっちゅう体感している。筆者の武道の師匠(元・全日本チャンピオン)がよく使うのである。確実に当たる位置から当たるタイミングで出した蹴りが、わかりやすくかわされたわけではないのに一切手応えを感じない気持ち悪さ。見てる人も、「今の当たったよな……?」と不思議そうである。機会があれば、みなさんにも体験してもらいたい。

 ただ、このスリッピング・アウェーは、神に愛された天才が常識の範疇を超える鍛錬を続けて初めて体得できるものだ。それこそ、川島郭志や、筆者の師匠や、そして佐藤明らのような怪物でなければ、試みることも許されない類のものだ。

 ちなみにこの一連の戦いは、あくまで「殺してはいけない」からこその攻防である。「殺してもいい」のなら、4人合わせて1分以内に皆殺しだろう。いや、「6秒以内に倒す」のが信条なので、6秒×4人で24秒か。

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