目黒蓮、『海のはじまり』で踏み出した大きな一歩 “心の交流”を通して描かれた夏の成長
月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)の主演・目黒蓮は、かなり高度なパフォーマンスを繰り広げていると思う。
作品が持つデリケートなテーマに、脇を固める演技巧者たち。これらを目黒は“主演俳優”として率いてこなければならなかった。そして気がつけば第9話までやってきた。物語はいよいよ佳境へと入っていくところである。
本作は、2022年に“社会現象”まで巻き起こしたドラマ『silent』(フジテレビ系)のチームが再集結したものだ。生方美久が脚本を手がけ、風間太樹が演出を担当、村瀬健がプロデューサーを務める新作ドラマで目黒が主演を張ることが発表された際、大いに話題となった。『silent』といえばご存知のとおり、目黒が演技者として一気に頭角を現した作品だ。そんな作品を世に送り出したチームの新作の看板を目黒が背負うーー彼が作り手たちからいかに信用され、期待されているのかが、このことから分かる。
そして私たち視聴者は大きな期待を胸に『海のはじまり』の世界に足を踏み入れ、傷ついた心優しき人々をここまで見守ってきたわけだ。
物語について簡単に記しておこう。目黒が演じるのは、印刷会社勤務の月岡夏という青年。とてもマジメで優しい性格の持ち主で、恋人の百瀬弥生(有村架純)との交際も順調だ。そんなところへ、彼の元を一方的に去っていったかつての恋人・南雲水季(古川琴音)の訃報を知り、彼女との間に海(泉谷星奈)という娘が生まれていたことを知った。本作が軸として描くのは、夏と海の心の交流である。
夏とは、誰に対しても気遣いができるタイプの人間だ。他者との関係において、どことなく一歩引いている印象がある。自分の主張よりも、基本的に相手の主張を彼は尊重する。当然ながら目黒が展開するのは“受け”の演技が基本に。目黒がこれに徹することで、周囲の者たちの個性が際立ってくる。彼ら彼女らの投げるボールをどのようにキャッチし、どのように投げ返すのか。これによって、夏というキャラクターも見えてくる。ちょうど1年前の同じ時期に放送された主演ドラマ『トリリオンゲーム』(2023年/TBS系)の天王寺陽とは真逆の役どころであり、パフォーマンスも真逆のもの。『海のはじまり』で目黒が実践しているのは、“優しい演技”だと言い換えることもできるだろう。
作品の看板を背負う座長としては、なかなか大変な役どころだとも思う。ダブルヒロインの有村架純と古川琴音を筆頭に、池松壮亮、西田尚美、大竹しのぶ、さらには田中哲司といった演技巧者が勢揃い。その中で、海役の泉谷星奈の手を取りながら歩を進めなければならない。夏が快活なキャラクターであれば話は別だが、先述したとおりの人物だ。目黒は彼の控えめで優しい性格を体現しながら作品を引っ張っていかなければならないわけで、ここにはかなり高いハードルがあるように感じる。