ファン・ジョンミンの悪役ぶりに惚れ惚れ 『ソウルの春』が傑作韓国ノワールである理由

『ソウルの春』が傑作韓国ノワールな理由

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末に公開する連載で、週明けに執筆してしまったギルティな間瀬が『ソウルの春』をプッシュします(すみませんでした)。

『ソウルの春』

 日本のご近所さんの国の一つ、韓国。世界各国から日本に入ってくる情報の量や詳細度は、インターネットが世界中に通じている今でさえ、物理的な距離に依存している。そのため韓国のことは政治からエンタメまでよく日本に入ってきているわけだが、表面的な部分では似たところも多い国同士であるのに、明確に異なる部分があるように感じる。それはおそらく、根底の部分で国の成り立ちが全く違うのだ。

  本作を鑑賞するにあたって自分の不勉強を恥じたのが、現代史において韓国は長らく独裁政権が続いていたことを知らなかったこと。今回の『ソウルの春』は、1979年にその独裁政権が民主化によって打ち倒されようとしたとき、軍のクーデターによって再度独裁政権となった実際の出来事を描いている。

 1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領が、自らの側近に暗殺された。国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる。

 普段から韓国ノワールを観るわけではないが、本作が韓国国内で人気の理由、とりわけ「『パラサイト 半地下の家族』を上回る1,300万人以上の観客動員を記録」(※)となった理由はよく分かる。クーデターが題材なこともあってアクションや駆け引きの緊迫感があり、社会の暗部を照らし出すドキュメンタリー的な質の高さも保たれている。鑑賞後に事件について調べると、「ソウルの春」の史実に対して、本作はドラマ仕立てでありつつも忠実に描いていることが分かる。

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