日野まり×鈴代紗弓、“逃げて生きる”は「とてもカッコいい道」 声優としての戦略を語る

日野まり×鈴代紗弓「逃げて生きる」を語る

 物語の主人公といえば「戦って勝つ」展開が定番だが、「逃げて生きる」新たなヒーローが注目を集めている。そんな新しい主人公像を鮮やかに描き出すのは、累計発行部数300万部を突破した松井優征の漫画を原作とするTVアニメ『逃げ上手の若君』だ。

 舞台は1333年、鎌倉幕府滅亡の時代。幕臣・足利高氏の謀反により全てを失った幕府執権の跡継ぎ・北条時行が、神官・諏訪頼重の助けを得て、燃え落ちる鎌倉から脱出するところから物語は始まる。諏訪の地で仲間と出会い、鎌倉奪還を目指す時行の姿が、従来の武士像を覆す「逃げて」「生きる」という新しい視点で、躍動感あふれるアニメーションとして描かれる。

 本作の魅力は主人公・時行のキャラクターはもちろん、魅力的なサブキャラクターたちにもある。今回は、時行を守る3人の郎党「逃若党」から、弧次郎役の日野まりと亜也子役の鈴代紗弓に話を聞いた。彼女たちは、本作におけるキーともなる「逃げる」という行為をどのように捉え、時行を守る使命を与えられた2人をどう演じているのだろうか。

歴史物に出演することへの憧れ

(左から)鈴代紗弓、日野まり

ーー江戸や大正時代をモチーフとするアニメは多いものの、ここまでこの時代を掘り下げた作品は少ないですよね。お2人の鎌倉時代・南北朝時代に対するイメージは?

鈴代紗弓(以下、鈴代):鎌倉時代に限らず、歴史全般に通じることかもしれないのですが……やっぱり命懸けの戦い特有の緊張感がありますよね。今の時代だと戦の描写は歴史物ならではのイメージがありますけど、当時の人たちにとってはそれが当たり前の世界だったというか。もし自分だったら、死の恐怖に怯えながら生きていただろうなって思います。自分の演じる役は守る側なので、そういった時代にどことなく漂う緊張感について、より考えさせられました。

日野まり(以下、日野):私は源平合戦のあたりが好きなので、頼朝と鎌倉の結びつきの印象が強かったんです。でも、それ以降については歴史の授業でしか触れていなかったので……。イメージとしては、貴族中心の政治から武士中心に変わって、もう少し文化が開けているんじゃないかと思っていました。でも、実際にはまだまだ戦の時代だったんだなって。

ーー時代背景を理解するための準備などはされましたか?

鈴代:本編第1話にも似たようなものが出ていましたが、『学習まんが日本の歴史』を買って読みました。ちょっと量は多いんですけど、とにかく歴史に関する知識が乏しすぎて、これはマズいと思い…。『逃げ上手の若君』を観た後に読むと、理解が深まるのでおすすめです(笑)。それぞれの登場人物が、歴史の中で何をした人なのかが明確になりました。

日野:私は役が決まってから、YouTubeで『逃げ上手の若君』の時代背景をまとめている人たちの動画を観ました。面白おかしく編集されていて観やすかったです。特に面白いと思ったのが、足利高氏の行動について。歴史を紐解いている人たちにとっても彼の行動は驚く点が多く、漫画の誇張表現ではないんだなと思いました(笑)。『逃げ上手の若君』をきっかけに舞台の歴史を掘り下げていくのも面白いんじゃないかな。

鈴代:ですね! 史実に基づいた部分も多いのですが、アニメだとより「このキャラはこういう意図があって行動していたんだ!」というのがわかりやすくなっている気がします。

(左から)日野まり、鈴代紗弓

ーーキャスト発表時のコメントでは、お二人とも役へ抜擢された心の底からの喜びが溢れていました。改めてオーディションはどんな流れだったのでしょうか?

鈴代:今回は、テープオーディションとスタジオオーディションがありました。亜也子のセリフも、終盤の方に出てくるようなものもあって、(事前に原作を)結構な巻数を読ませていただいて。テープの段階から歴史ものということで構えていたんですけど、読み進めていくうちに「めちゃくちゃ面白いな」って思いました。実は、声優としての目標の一つに「歴史ものに出たい」というのがあったんです。そういう意味でも、この作品は一つの目標を叶えてくれました。

ーー歴史ものに憧れてた理由は?

鈴代:ただただ、「カッコいい」からです!(笑)。

日野:セリフとか、役名だけでもカッコいいもの多いもんね?

鈴代:そうなんです! なのでずっと憧れでした……。特に亜也子は、最初に演じた瞬間からすごくしっくりきて。理由は明確に言えないんですけど、亜也子の持っている自由さがハマったのか、「この子に身を委ねてしまえば何でもありな気がする!」みたいな気がして、感覚的にすっと入れました。なので、今回のオーディションは事前にプランを固めて、というよりかは、ただ思うままにやってみました。

ーー「オーディション時から亜也子を演じるのが楽しかった」とおっしゃってましたが、役にバッチリとハマった感覚があったんですね。

鈴代:そうですね。今思うと、これで落ちてたら「なんだったんだろう、あれは」みたいになっていただろうな(笑)。スタジオでの掛け合いのオーディションでは、元々あったセリフ以外の追加セリフも振っていただいて。「同じセリフで何パターンかやってみてください」みたいな感じで、色々な引き出しを試された現場でしたね。でも、変に構えることなく、「自分が持っている精一杯を出し尽くせばいいや」って思えて。緊張よりも楽しさの方に振り切れたのは、やっぱり亜也子という役柄だったからだと思います。スタッフさんのブースも終始和やかな雰囲気で、それが伝わってきていたのも大きかったかもしれません。

ーーこういうことはよくあることなんですか?

鈴代:いやいや!(笑)。緊張したり、上手くできなかったなとか思うことの方が多いです。でも今回は珍しく、120パーセント楽しかったって言い切れるようなスタジオオーディションでした。結果もついてくるに越したことはないんですけど、「このオーディションを受けられただけでもいい日になったな」って。そんな気持ちよさがあった日でしたね。

ーー日野さんはいかがですか?

日野:弧次郎役はメインで受けていたんですけど、「もう1枠ぐらい受けてもいいよ」と言われたので、実は今回、記念受験のつもりで北条時行も受けました。ただスタジオでは特に指示がなくて、これは刺さらなかったんだなと思いつつ、「なら好きなように演じてみよう」と思って。掛け合いのオーディションは久しぶりだったし、皆さんとやれたのもすごく嬉しかったので、普通に楽しくやって帰りましたね(笑)。

ーー弧次郎のオーディション時のアプローチはどのように練って臨んだのでしょうか?

日野:私と弧次郎くんはマインドが全然違いすぎて、私にないものばかりなんです。だから、私なりに唯一できた役作りは、“とにかくカッコよく演じること”でした。クールさに全振りで臨んだオーディションでは、誰よりもカッコいいキャラで演じたいし、誰よりも弧次郎くんのカッコいいところを知ってもらいたいという気持ちで臨みました。もはや、私が彼に片思いしているような気持ちです(笑)。ただ逆に決まってからは、それ以外の面を演じるのに苦労したんです……。

ーーというと?

日野:序盤の戦闘シーンでめちゃくちゃ印象深いことがあったんですよ。最初は「弧次郎が吹き飛ばされる画が欲しいんだな」みたいな一面的な見方しかしてなくて。そしたら音響監督の藤田さんに「弧次郎ってさ、ただで吹き飛ばされると思う? 負けん気があって、踏ん張ったりしがみついたりしないかな?」って言われてしまって。自分の掘り下げが全然足りないし、浅はかだなと思ったんですけど、落ち込むより次に活かしたいって気持ちの方が大きくて。これは忘れないようにしようと思いましたね。

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