『海のはじまり』弥生と水季の対照的な人生 抑圧された感情を表現する有村架純の演技力

『海のはじまり』弥生と水季の対照的な人生

 特に第4話で印象的だったのは、弥生の抑圧された感情を表現するシーンだ。何気なく、しかしはっきりと「普通のブレンド」を強調して注文する弥生。その姿が意味するものは明白だ。カフェインの胎児への影響は諸説あるものの、一杯のコーヒーに込められた「これから」の決意が伝わってくる。

 そして、放送前から話題を呼んでいたバスルームのシーン。自らの腹を撫で「もういないんだった」と着衣のまま号泣する弥生の姿は、ただただ苦しい。シャワーの音にかき消されていく嗚咽にだけ、弥生の本音が宿っているようにも思えた。グレーの服がシャワーの水を吸って黒く変化していく様子は、彼女の心に空いた埋めようのない穴を象徴しているかのようでもある。

 水季には、これから生まれてくる孫の存在を誰よりも喜んでくれる父親がいた。そして、彼女の決断に涙を流して寄り添う夏の存在もあった。対照的に、弥生の傍らには「背中を押してくれる誰か」がいなかった。この違いが、2人の人生を大きく分岐させる結果となったのかもしれない。

 弥生は「私、殺したことある」と夏に人工妊娠中絶した過去を打ち明ける。繰り返すように彼女の口から出てきた「ごめんなさい」は、海でも夏でもなくお腹の子どもへの気持ちだったのだろう。この重い告白の後、どこか距離ができてしまった2人。しかし、その溝を埋めたのは、意外にも海からの1本の電話だった。「弥生ちゃん。海のママじゃないから、夏くんと一緒に居れないの?」という海の無邪気な問いかけは、2人の関係を見つめ直すきっかけとなる。

 第4話のクライマックス。本編が投げかけたのは、「幸福とは何か」という普遍的な問いだ。周囲の評価や社会の常識ではなく、自分自身の内なる声に従うことこそが真の幸せにつながると。たとえそれが、他者の目には不幸に映るものだったとしても。それは水季にも、そして自らの痛みをようやく大切な人と共有できた、弥生にも通じるメッセージなのだろう。

 朱音(大竹しのぶ)が放った「夏休み、一緒に暮らしたら?」という何気ない提案は、弥生の“今”にどう関わってくるのだろうか。夏と弥生、そして海。三者三様の思いが交錯する中で、新しい何かが始まろうとしている。

■放送情報
『海のはじまり』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:目黒蓮、有村架純、泉谷星奈、木戸大聖、古川琴音、池松壮亮、大竹しのぶほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹、髙野舞、ジョン・ウンヒ
主題歌:back number「新しい恋人達に」(ユニバーサル シグマ)
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/uminohajimari/
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