有村架純が体現してきた“ヒロイン像” 『海のはじまり』弥生が背負う過酷な運命

有村架純が体現してきた“不幸なヒロイン像”

 やはり、有村架純はすごい。あらゆる作品で彼女の姿を目にするたび、そう思い続けてきた。そしてこの思いは作品ごとに更新され続けてきた。彼女はつねに私たちの期待を上回るパフォーマンスを、各作品に刻んできたのである。

 放送中のドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)でもやはりそうだ。作品の概要と彼女が務める役どころだけしか知らされていなかったにも関わらず、大きな期待感を抱かずにはいられなかった。そして今回ももちろん、期待を遥かに上回っているところなのである。

 本作で有村が演じているのは、ヒロインの百瀬弥生。化粧品メーカーの開発部で働く人物で、真面目で几帳面な性格の持ち主だ。仕事もできるし、恋人との交際も順調。はたから見れば“うまくいっている人”である。

 ところが本作は一筋縄ではいかない。そう、主人公・月岡夏(目黒蓮)が歩む物語において、弥生だけがヒロインではないからだ。

 本作のメインのストーリーラインとなっているのは、夏とその娘である南雲海(泉谷星奈)の心の交流である。この海とは、彼の元を一方的に去っていったかつての恋人・南雲水季(古川琴音)との間にできた子ども。水季は海の存在を夏に隠したまま、この世からも去ってしまった。ここまでの作劇と構成からして、水季もまたヒロインだといえるだろう。

 かつて愛した女性が自分との子を遺してこの世を去ったーー夏が動揺するのは当然だが、突然の展開に弥生だって苦悩している。気丈に振る舞う彼女の姿を見ていると、胸が張り裂けそうになる。過去に弥生は望まない妊娠をし、中絶した経験があるのだ。

 たとえば弥生がひとりで涙を流したり、夏に連絡をしようとして躊躇したりするなど、彼女の内面の揺れ動きにフォーカスしたシーンがいくつも用意されている。この積み重ねによって私たちは、彼女の心の内を知るつくりに本作はなっているのだ。非常に分かりやすい。だが、じつは彼女が登場するすべてのシーンにおいて、弥生の内面は激しく変化しているように感じる。

 これは何も、筆者が彼女の気持ちを想像して勝手に感じたものではない。ふとした瞬間のセリフの調子や視線の動きに、それらは間違いなく表れている。演じる有村は弥生の感情の流れに合わせてこうした表現をしようと試みているのか、それとも徹底的に感情を隠そうとした結果、弥生という人間を形成する細部から溢れ出てしまっているのか。第3話までの段階では、まだ掴みきれずにいる。

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