松山ケンイチ、滝藤賢一、沢村一樹 『虎に翼』異なるアプローチで寅子の背を押す上司たち

『虎に翼』個性豊かな“3人の上司”

手ごわい先輩だが、寅子の裁判官への道を手助けする桂場(松山ケンイチ)

 松山が演じる桂場は全くもっておちゃらけたキャラクターではないが、“実は甘党”という設定と大好きな甘いものの前ではムッとした面持ちがほころぶというギャップが面白い。

 そんな桂場は、寅子に対して度々厳しい言葉を向ける。しかしその言葉には、寅子が自覚できていない現状や感情を指摘するようなものが多い。松山は、寅子と向かい合った時や、寅子が何らかの発言をした時などに、桂場を印象付けるムッとした面持ちは崩さずに彼女を気にかけるようなまなざしを向けている。視聴者にだけ届くそのまなざしに、桂場が他の誰よりも寅子を応援し、導いているといった印象を抱く。

 第50話では、ふっと明るい顔を見せたことで、桂場の寅子への思いがよりいっそう感じられた。寅子を法の道へ導いて不幸にしたと謝罪する穂高(小林薫)に寅子が「はて?」となる。「私は好きで、ここに来たんです!」と告げると寅子はその場を立ち去った。「私はまた何か問題を起こしたかね?」と不安げな穂高に、桂場はふっと笑い、感慨深い表情で「いや、ある意味、背中を押してやれたんじゃないですかね」と言った。桂場の一見不機嫌そうな表情の中にある彼のさまざまな感情を松山は真摯に演じている。

3人揃うと、それぞれのキャラクターがより際立つ

 第72話で、寅子が急に異動を命じられたことに腹を立てた多岐川は、異動を命じたという桂場に掴みかかった。多岐川の怒る様には、信頼を置いている寅子への仕打ちに納得いかないという情熱的な彼らしい、まっすぐな気持ちがありありと伝わってくる。多岐川に掴み掛かられても動じない桂場からは、彼なりに出した結論に対して決して揺るがない姿勢が感じ取れた。久藤もまた、憤る多岐川を制止し、その場を立ち去った多岐川をすぐに追いかけ、「桂場君も」と声をかける姿に彼らしい人当たりの良さが見てとれる。

 第70話の終わりも印象的だ。穂高の死に対する反応は三者三様だった。「はあ〜寂しいね。偉大な先輩たちが次々に旅立って」と落ち着いた口調ながらも寂しげな久藤に対し、多岐川は恩師に思いを馳せる言葉尻ながらも、はじめに「しょうがない、人はいずれ死ぬ」とキッパリ言い切るのが彼らしい。一方、桂場は腹の内を決して見せない彼らしいといえば彼らしいが、無言で団子を口いっぱいに頬張り、あまり強くないのにお酒をあおり、「先生の教えはとうに俺たちに染み込んでいる!」と熱弁をふるっていた。寂しさからか、「黙れ! 皿ぐらい食わせろ! お代わり!」と皿を貪り食う豹変っぷりには笑ってしまったが、あのシーンで、人となりや性格の違う3人の信頼関係が伝わってきたように思う。

 今後もこの3人は、寅子にとって大切な上司であり続けることだろう。いち視聴者としては、第70話のような、多岐川、久藤、桂場のワイワイとしたやりとりをまた見たいところだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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