『怪獣8号』福西勝也×瀬戸麻沙美×加藤渉が考える、“夢と年齢”との向き合い方
夢を追う年齢に制限はあるのだろうか。体力的に若いうちの方が有利な面もあれば、年齢を重ねた今だからこそ見えてくるものもある。怪獣が存在する世界を舞台に、怪獣と戦う防衛隊への入隊を目指す32歳の主人公・カフカの活躍を描いた『怪獣8号』。作中では、そんなカフカの「夢と年齢」が大きなテーマとして描かれている。
アニメ『怪獣8号』で主人公・カフカを演じるのは福西勝也。ヒロイン・ミナ役を瀬戸麻沙美、カフカの後輩・レノ役を加藤渉が務める。
登場人物たちが見せる姿は、夢を追うことに対して悩みを抱える視聴者にも勇気を与えるに違いない。3人の声優陣はアニメ『怪獣8号』のキャラクターを通して、何を感じたのだろうか。「夢と年齢」との向き合い方への実力派声優陣のリアルな思いに迫る。
『怪獣8号』との出会い
ーーまずは原作漫画の『怪獣8号』との出会いを聞かせてください。
福西勝也(以下、福西):「この作品のメディアミックスに携われたら嬉しいな」という想いは当初からありました。『少年ジャンプ+』で『怪獣8号』の連載が始まった当日から、もういろんなところで話題になっていて。その評判を見て「読むしかない!」と。ちょうどコロナ禍真っ只中だったこともあって、世の中に気落ちしている雰囲気が漂う場面が多かったじゃないですか。本作はそんな私たちを勇気づけてくれるような内容だったのもあって、みんなが夢中になりましたよね。もちろん、今もずっと最新話を追い続けています!
瀬戸麻沙美(以下、瀬戸):私が原作に触れたのは、オーディションのお話があってからでした。ただ、オーディションでも、あえて(原作を)全て読み切らずに読み進めていたんです。オーディションの時って、抜粋されたセリフを読むケースが多いのですが、原作を読むのはそのセリフの参考になる箇所までと決めていたので。というのも、先を読んでキャラクターに強い思い入れが生まれてしまうと、自分が万が一ダメだったときにショックなので……。
福西:そうなんですよね〜。ダメだった時って、失恋したような気持ちになりますよね。
瀬戸:そうそう(笑)。でもその一部からでも、作品の読み心地の良さだったり、隊員になりたい思いを持った真っ直ぐなキャラクターたちの魅力は伝わってきました。みんなが前を向いている珍しい作品ですよね。合格が決まってからは、原作をしっかり読み進めて、あらためてその熱量の高さや強いパワーを感じてます。だからこそ、今本当に楽しいですね。
ーー加藤さんは、オーディションを受ける前にカラオケで声優のご友人と読み合わせをしていたとか。
加藤渉(以下、加藤):そうなんです。カラオケで作品を読み合わせしていたときに演じていた役がレノだったんです。僕も福西さんと同じで、連載が始まった当初の時から、作品のファンでした。『怪獣8号』の冒頭って、“怪獣大国日本 その発生率は世界でも指折りである”というナレーションから始まるんですよね。そこで僕、「天才だな〜」って心打たれちゃって。
福西:わかるわかる!
加藤:実生活と地続きにあるフィクションに心惹かれたから演じたいと思いましたし、実際演じてみても楽しかったです。レノ役を今いただけていることが幸せですね。
ーー念願の『怪獣8号』に出演することが決まった時の気持ちはいかがでしたか?
福西:もう、意味がわからなかったです(笑)。「人生が変わるぞ!」と思いました。私はカフカがいちばん好きなので、大好きな作品の大好きな主人公を演じられるなんて、出来すぎているとすら思ってしまうぐらい。
ーーキャストコメントで「大大大好きな主人公」とおっしゃっていましたね。
福西:“大大大……”って、本当はあと10個くらいつけたいくらい! ただ幸せすぎて、逆に決まってすぐは「私これから、どうなっちゃうんだろう?」「こんなことがあっていいのか?」みたいな漠然とした不安はありました。それでも話が具体的になってくるにつれ、比例するように楽しみな気持ちが増していって。原作を何度読み返しても、「これを自分が演じるんだ」と思えることも楽しい。今もプレッシャーはあまり感じていないのですが、皆さんの目に触れる頃に多分感じるんだろうな……。今のところ「嬉しい楽しい! ハッピーハッピーハッピー!」みたいな心持ちがずっと、同じ熱量で続いてますね。
ーー瀬戸さん、加藤さんはどうですか?
瀬戸:私はスタジオオーディションした時に、自分的に大きな手応えがあったわけではなかったので、まさか自分に決めていただけるとは思っていませんでした。オーディションの時は、まだミナの声に自分の中でそこまでピンときてなかったので。「ミナの声の可能性」がたくさんあった段階だったんですよね。だからこそ、怪獣8号に関われる嬉しさを感じた後は、頭の中が「これからどうやって取り組んでいこうか」にすぐシフトチェンジできた気がします。
加藤:実は僕の場合、自分が元々読んでいた作品に(出演が)決まることが初めてだったんです。普段から「この作品で演じるとしたら、この役がいいな」とか考えながら読むことはあるのですが、ついにそれが現実になったというか。でも、一読者としてストーリーを楽しみにしていた身でありながら、こうして今回決まって見ると読み方が少し変わってくる部分もあって。自分が演じることで、(キャラへの)心の傾きがさらに増すような面白みを感じつつ、この先のやりがいみたいなものを想像しました。
ーー実際の収録では、原作者の松本直也さんがアフレコチェックをされているとお聞きしました。松本さんとは何かやりとりがあったのでしょうか?
福西:今でも景色を思い出せます。第1話の収録時に、一旦始まりのご挨拶があって。でもすぐにアフレコ始まるんで、その時は挨拶だけで。その後、アフレコが終わった後に「本当に、カフカそのままでした」とおっしゃっていただいたんです。
加藤:嬉しいね〜!
福西:そっ、そんなことって……(噛み締めるように数秒の沈黙)。
加藤・瀬戸:はははっ(笑)。
福西:それ以上の嬉しさってないというか。キャラクターを0から1で生み出した方に、 声優として温かい言葉をかけてもらえるって、何事にも変えがたい幸せなので。先生の言葉を聞いて、スッと不安が溶けました。自分が持っているものに自信を持って、表現するしかないと思いましたね。しかも、お忙しい中、毎回来てくださるんですよ。そこでお芝居や作劇上の相談はもちろん、休憩時間には雑談したりもして。とにかく不安を一切払拭していただきました。
瀬戸:それこそ今、福西さんがおっしゃったように、先生が直に見てくれてオーケーが出た安心感は非常に感じられました。原作へのリスペクトがあるからこそ、アフレコブースから監督が先生とアフレコ現場を確認しあっている様子に、風通しが良い作品作りの現場になっていることを感じましたね。リテイクも、「やっぱり原作の通りでいきましょう!」みたいなこともありました。もちろんアニメーション用の脚本があるので、それもすでに一つの作品なのですが、アニメとしての作品作りが原作者の先生も含めて、直に行われていることをひしひしと感じました。
加藤:僕が演じているレノは、演じている段階ではバックボーンがまだはっきりと明らかになっているキャラクターではなかったので、自分で想像して臨んでいたんですね。その時に、アニメの台本の余白の部分に、かなり詳細に自分の想像を書き連ねていて。簡単に言えば、レノは過去にこういう出来事があったから、カフカに対しての反応がこうなるんじゃないか、みたいな内容なのですが、その話をスタジオのロビーで福西さんとしている時に、ちょうど松本先生がいらっしゃって。僕のレノの解釈を恐れ多くも見ていただくことに……。
ーー先生の反応は……?
加藤:「いいですね〜」と一旦受け止めてくれた後で、僕が書いていたことを完全に否定するわけではなく、「実はレノにはこういう出来事があって……」と読者に対してまだはっきりと説明されていないような、情報や解釈を伝えてくださりました。完全一致ではないけれども、その部分に関しては、軸がブレない程度に自分の用意していたものと一致していたので、「きちんと考えれば考えた分、報われることがあるんだな」と思いました。先生と直接ディスカッションできた時間も幸せでしたし、作品作りに対して建設的な行為ができたことにも、先生がいらしてくれたことのありがたみを感じています。
福西勝也とカフカは似ていて「運命を感じる」
ーー『怪獣8号』でみなさんが演じる、それぞれのキャラクターの印象について教えてください。
福西:ずっと思っているのは「カフカのこと、みんな好きじゃん!」ってことですかね。演じている身で言うと、変な照れも入っちゃいますけど……。“おじさんの主人公”っていうシンプルな属性だけ見ても、少年誌ではちょっと斬新で面白いじゃないですか。しかもカフカは、カッコいい部分や渋さよりも、情けない部分であったりとか、カッコ悪くて泥臭い部分がたくさんフィーチャーされている。そんなところもおじさん主人公としては珍しいし、好かれている一因でもあるのかなぁと。
ーー弱さも見せてくれるからこそ、共感できるポイントも多いキャラクターですよね。
福西:そうなんですよね。私はもともと泥臭い兄貴分的なキャラを好きになりがちなんですけど、 そこにドンピシャなカフカが主人公に据えられている。もうその時点で好きだし、演じていくにつれ自分と似ている部分も見えてきたりして、個人的により好き度が増しています(笑)。失敗した日は家に帰ったら落ち込むんだけど、そこで一度フラットに戻したり、人と会うことでリセットして、また盛り上がれたりとか。 日々の過ごし方や人間としてのあり方が、結構私と似通っていて。あと私、このヒゲ高校生の時から生やしてるんですけど……。
ーーええっ!
福西:10代の時から、生やしてまして(笑)。そういうビジュアル面でもちょっと運命を感じながら、日々演じております。なので、気持ち的にもかなり自然な領域でお芝居をしているなっていう感じですね。
加藤:福西さんが演じているカフカって、“演じている感”がないんですよね。本当に恥ずかしげもなく照れくさいことを言って、それに対してレノが「また言ってるよ、この先輩は……」ってツッコむ。素で出てくるリアクションができる感じが、ありがたいですね。
瀬戸:カフカって、やっぱり人間関係の経験値がある人だなって感じがする。ちゃんと何か言う前に1回飲み込める人であり、思考してから話せる人。年齢もあるかもしれないけど、自分が劣等感を知っている人だからこそ、すぐに思ったことを口に出さないで、ちゃんと噛んでから喋れるおじさんだなっていう印象ですね。福西さんが演じられているカフカは、そんなカフカの人の良さみたいなものが出ている気がしています。
ーーミナ、レノはどうでしょうか?
瀬戸:ミナは最初の印象は、遠い存在ですかね。怪獣大国でのみんなのヒーロー。幼なじみのカフカの目から見ても、手の届かない存在じゃないですか。「彼女の本心はどこにあるんだろう?」って、ちょっと心配になっちゃうようなところはありました。でも彼女なりに「きっと隊長としてしっかりしていなきゃいけない」葛藤みたいなものを乗り越えたあとなんだろうと思いました。演じる時に気をつけていたのは、戦闘で指示を出すときの言い方だったりとか、緊張感だったり。自分の発言が周りに響を与える人だから、「ミナ自身も気をつけているんだろうな」と思うところは意識して演じました。
加藤:レノって、元々僕の中では「熱いヤツ」っていう認識だったので、熱い人として演じたかったんです。ディレクションとしてもレノは必死なので、「成長したと思っても成長を見せつけるようなお芝居をしないでほしい」とは言われていました。その後、本編でレノとして重大な局面を迎えるシーンの収録の際に、「レノってこういうやつなのかもしれない」と途中から気付いたこともありました。誰かのために命を張れる人を守れる人に自分はなりたい。レノは、そういうキャラクターなんじゃないかなって。考えた上で収録に臨めたのは、いい経験になりました。