『虎に翼』伊藤沙莉が試練を乗り越えて栄光を掴む 女性というだけで上がるハードルの存在
試験を終えて寅子(伊藤沙莉)が帰宅すると、梅子(平岩紙)から手紙が届いていた。『虎に翼』(NHK総合)第29話で、寅子は二度目の挑戦で高等試験司法科に合格した。
姿を見せない梅子を案じつつ、筆記試験を受けた寅子。梅子の手紙は、不在を詫びる言葉で始まっていた。梅子は、夫の徹男(飯田基祐)に離婚を突き付けられ、三男・光三郎(石塚陸翔)を連れて家を出ていた。離婚の理由は、徹男の再婚。梅子が明律大学で勉強している間に、徹男は外で女を作っていた。梅子は綴る。
「もっと早くこうすべきだった。そうすれば長男や次男も助けられたかもしれない。自業自得です」
梅子は「トラちゃんたちならば、立派な弁護士になれると信じています。どうか私のような立場の女性たちを守ってあげてください」と思いを託した。何の非もないのに、家を出なくてはならない梅子を思うと胸が苦しい。手紙は「ごめんなさい」が三度、「さようなら」で結ばれていた。
寅子と優三(仲野太賀)、よね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)、中山(安藤輪子)は、筆記試験を通過した。寅子たちは、前年不合格の久保田(小林涼子)と口述試験の対策をする。口述試験は、法律の能力を測るものである。態度を指摘されたよねは「必要なのは法知識の正確さだ」とあらがうが、ここで久保田が自身の経験を語る。前年の口述試験で久保田は、試験官から「結婚の予定はあるのか」と尋ねられた。久保田は「その質問は試験に関係ないのでは」と返答したが、結果は不合格だった。
女性は結婚して家庭に入るものと考えられた時代に、試験官の質問は、端的に合格後の進路を尋ねる意図だったかもしれない。けれども、寅子は、そこに言外の意味を読み取った。前年、筆記試験に不合格になった時に、桂場(松山ケンイチ)から「同じ成績の男と女がいれば男を取る。それは至極まっとうなことだ」と言われたことを思い出した。男女間で優劣をつける発言は、現在では到底受け入れられないが、久保田も女性であることが理由で落とされた可能性が考えられた。
ここで史実を振り返ると、日本初の女性弁護士の一人である中田正子さんは、二度目の挑戦で高等試験を突破したが、前年の口述試験で不合格になっている。そのことについて、口述試験を担当した試験官が、後日、「あの人は生意気だったから落とした」趣旨の発言をしたことが伝わっている(※)。ドラマのエピソードも、あながち間違いではないのかもしれない。