『ゴジラxコング 新たなる帝国』の理知的な試み アダム・ウィンガードがなし得た偉業とは

『ゴジラxコング 新たなる帝国』の真価を考察

 『ゴジラvsコング』に引き続いて、この豪快かつ荒唐無稽なエンターテインメント作品の監督を務めたのは、またしてもアダム・ウィンガードだ。彼はもともと低予算のジャンル映画を手がけながら、そのなかで真に先端的な表現を続けてきている、稀有な監督として知られている。近年は『Death Note/デスノート』(2017年)などバジェットを大きくしているが、『ゴジラvsコング』でついに超大作を手がけるに至ったのだ。

 正直なところ、彼のモンスター大作への挑戦は、その圧倒的な才能を存分に活かせる題材かどうかという部分に疑問符がつくところがあった。小さな規模の映画で圧倒的なセンスを発揮させてきたウィンガード監督のイメージと、世界中の観客を集める怪獣映画との関係に親和性が見出しにくく、どこかボタンをかけ違えているような印象を覚えたのだ。

 本シリーズのような、1億ドルを優に超える規模の大作では、監督の才能を見せるよりも、とにかく製作費分を回収することはもちろん、大ヒットさせることが至上命題とされる。その意味で、前作や本作において好調な成績を記録しているウィンガード監督は、たしかに義務をしっかりと果たしているといえる。しかし本作で彼は、かなり挑戦的な手を打ち、自分の持ち味をついに前面に押し出し始めたと感じるのである。

 それを端的に示すのが、ダン・スティーヴンスのキャスティングと、彼が演じる奇妙な役柄、獣医トラッパーの活躍である。コングの虫歯を豪快な方法で治療し、さらにはさまざまな危険に笑顔で立ち向かい、仲間たちのメンタルまでケアするという彼のパーソナリティは、あまりにもさわやかでナイスガイだ。それだけでなく、『007』のジェームズ・ボンドのように、海岸のきらきらと輝く光を背負って現れる、耽美的な箇所もある。しかし、このキャラクターは決して物語を構成するために必要な役割を果たすわけではない。圧倒的に“異物”として存在しているのだ。

 じつは、ダン・スティーヴンスは、ウィンガード監督の充実したフィルモグラフィーの中で、とくにその天才が表れた作品『ザ・ゲスト』(2014年)の主演でもある。『ザ・ゲスト』は、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督による、謎の美青年が一つの家族を崩壊させていく問題作『テオレマ』(1968年)の現代版リメイクのような一作だ。そういった謎めいた題材を、B級ホラーや1980年代のテイストなど、アメリカ文化を組み合わせて再構成することで、『ザ・ゲスト』は抽象的なアートとして楽しめる作品となっているのである。

 『ザ・ゲスト』でダン・スティーヴンスが演じたキャラクターは、戦場で活躍した軍人であるとともに、圧倒的な人間的魅力を発揮し、それがあまりにも極端だからこそ危うい不穏さを発揮するといった、これまでにないタイプの異様な人物だった。本作で彼が演じたトラッパーもまた、兵士のアクションフィギュア「G.Iジョー」シリーズの1980年代に発表されたキャラクターの一部を土台にしているという。

 このような事実を総合して考えていくと、ウィンガード監督は、またしても80年代アメリカの表象を色濃く作品に刻みつけようとしていることご理解できる。つまりここでは、『ザ・ゲスト』がそうであったように、本作を荒唐無稽なB級サブジャンル映画としてとらえた上で、それを一段高いところで俯瞰しながら、怪獣映画の要素と、軍人やプロレス、ポップカルチャーなどのアメリカ文化を解体しマッシュアップした、一種の抽象化されたアートとしても提出するという試みを見せているのである。

 超大作としてB級映画的な娯楽映画を仕上げ、ともすればメインカルチャーからは鼻で笑われるような展開の面白さを提供しながら、じつはそれ自体をアーティスティックな再構築映画として、さまざまなスタッフの才能を組み合わせながら完成させるという離れ業は、それを段階を追ってさまざまな作品で表現してきたアダム・ウィンガード監督にしかなし得ない偉業であるといえる。この凄さは、例えばクエンティン・タランティーノ監督が、娯楽超大作を撮って成功させることの難しさを想像すれば理解しやすいかもしれない。

 そんな多角的な方向からの理知的な試みが、荒唐無稽な展開の数々を包み込んでいると考えれば、本作『ゴジラxコング 新たなる帝国』を、また一つ違って、アメリカ映画の粋をかたどった、優れた芸術としてとらえることができるのである。こういった楽しみ方ができるのも、長年の歴史を経て洗練されていった、現在のアメリカ映画の魅力の一端なのだ。

■公開情報
『ゴジラxコング 新たなる帝国』
全国公開中
出演:レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ダン・スティーヴンス、カイリー・ホットル、アレックス・ファーンズ、レイチェル・ハウス、ファラ・チェン
監督:アダム・ウィンガード
脚本:テリー・ロッシオ、ジェレミー・スレイター、サイモン・バレット
製作:レジェンダリー・ピクチャーズ ワーナー・ブラザース
©2024 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:godzilla-movie.jp
公式X(旧Twitter):GodzillaMovieJP

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