ネタバレ=絶対悪なのか? 劇場版『名探偵コナン』試写会なしの意味を考える

『名探偵コナン』試写会なしは正解だった?

 劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』が公開初日3日間だけで33億円の興行収入を叩き出す大ヒットを記録している。

 今回は、ネタバレ防止を徹底するためか、事前に試写回が開催されなかった。その影響が興行の初動にどの程度影響したのかを把握することは難しい。ただ、ファンにとってはネタバレ厳禁なネタが仕込まれていたことは確かで、初見で衝撃を受けてもらうという狙いは、おそらく功を奏したと言えるだろう。

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 ネタバレをどう扱うか、今はとても難しい社会状況となっている。コナンほどの人気タイトルならいざ知らず、一般の映画では事前にどんな内容なのか、ある程度情報を出さないことには注目されないし、かといって、熱心なファンほどよりネタバレしてほしくない。どこまで情報を出すか、いつ出すかというタイミングを間違えると炎上することもあるし、さらに言えばネットに跋扈するネタバレサイトは著作権侵害や業務妨害罪ともなり得る。

 そして、世の中には「ネタバレは絶対悪」という人もいれば、同時にネタバレを必要とする人々もいる。ネタバレは今、一筋縄ではいかない問題なのである。

ネタバレをめぐって両極端な対応を迫られる映画宣伝

 何がネタバレにあたるのか、個々人によって許せる範囲は異なり、その境界線を引くことは大変に困難だ。ただ、一般的には物語の結末や重要な核心に触れる内容を公表することが、ネタバレと解釈されることが多い。

 例えば、今回のコナン映画では、宣伝文句として「ついに明かされる怪盗キッドの真実」というコピーが使用されているが、この真実に相当する内容を語ったら、一般的な解釈としてネタバレになる。

 しかし、少年探偵団がどの程度登場するとか、途中にどんなアクションがあるかといった内容の場合は、どうなるだろうか。それくらいは許容範囲という人が多いだろうけど、人によってはネタバレと思うかもしれない。そういう曖昧な領域はどんな作品にとってもあり、絶対的な線引きはできない。極端な話、「怪盗キッドの真実が明かされる」というコピー自体がネタバレと思う人だっているだろう。

 現在の映画宣伝は、こうした情報のコントロールにかなり神経質になっている。試写会に行くと、「~については公開~週間後までは書かないでください」と言われることもよくある。初週には特に熱心なファンがこぞって劇場に向うが、数週間後からはライトな客層も増えていくため、徐々に情報を出していくわけだ。

 今回のコナン映画は、ここ数年の作品の中でも衝撃度の高いネタが仕込まれていたために、事前に一切試写をせずに秘匿する選択をとった。万が一事前に情報がもれたら大炎上になっていただろう。

 しかし、熱心なファンはそれでよくても、カジュアルに作品を楽しみたい層にとっては、内容がわからないと観たいかどうかの判断ができない。より詳細な内容を知った上で吟味して劇場に行きたい人もたくさんいるので、映画興行はその両方にアピールする必要がある。

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ネタバレは犯罪になり得るか?

 2023年5月、ゲーム実況を行う男性が著作権侵害で逮捕される事件があった。この男性は、ストーリー展開が売りのアドベンチャーゲームのあらすじや結末が分かる動画を投稿していたことで逮捕された。直接の容疑は著作権侵害で、相当に悪質だったために逮捕にまで至った特殊なケースだが、たとえば産経新聞の取材にとあるゲーム会社が「内容を公開されてしまうことは営業上の大きな損失となる」とコメントを寄せている通り、場合によってはネタバレは営業妨害ともなり得る可能性がある(※1)。

 また、2021年にはマンガ『ケンガンオメガ』の台詞や行動などを全て文字に起こしたネタバレサイトが複製権、公衆送信権侵害となると判断されたケースもある(※2)。これらのネタバレサイトは、ネタバレ自体が罪に問われたというより、悪質な劣化コピーだったことが問題視された。

 これらネタバレサイトは、ネタバレそのものが罪に問われているというより、内容をほぼそのまま出しているから著作権侵害や公衆送信権侵害に問われている。自分の言葉でネタバレするような形で、ごく一般的な感想をネットに書き込むだけなら罪に問われないだろうが、よっぽど悪質性が高ければ「もし対応するのであれば著作権侵害ではなく業務妨害などが考えられる」と考える弁護士もいるようだ(※3)。

ネタバレがないと不安な人たち

 こういうネタバレサイトは、どんな人々が利用しているのだろうか。

 映画やドラマを倍速視聴で観る人が増えているという指摘がしばしばメディアに登場するようになった。これは背景に大量のコンテンツが溢れる現代において、作品を楽しむというより、情報として処理する傾向が強まることでタイムパフォーマンスを重視する人の増加した結果だとよく指摘される。

 こうしたタイパ重視指向の人々の中に、ネタバレを歓迎する人も多い。とある調査では、Z世代の半数近くが、ネタバレサイトを見てから作品を鑑賞すると答えており、その理由は、せっかく鑑賞に時間を費やすなら後悔したくないし、ショッキングなシーンなどで必要以上に感情が揺さぶられないようにしたいという心理があるという。

 「私自身、大好きなバイオハザードのゲーム実況を見るときは、YouTubeのコメント欄で誰かが『3:15 敵来る気をつけて』などの投稿は必ずチェックしています」と、若者攻略に特化したプランニング組織「Zs」代表の牧島夢加氏は書いている(※4)。大好きなコンテンツでもネタバレしてほしいという感覚があるのだ。

 これについて、牧島氏は、Z世代は「未体験より追体験」に価値を感じているのではと結論づけている。悪質とも思えるほどのネタバレ動画やサイトも、こうした人々にとっては、作品選びの助けになっている可能性があるのだ。

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