チュ・ジフンはなぜ映画・ドラマを横断する俳優になれたのか “若造”役で得た芝居の重み

チュ・ジフンのキャリアを総振り返り

 ディズニープラスで4月10日から配信開始となったオリジナルドラマ『支配種』。物語は、人口培養肉を取り扱う企業であるBF社のCEOユン・ジャユ(ハン・ヒョジュ)の乗った車に、ある人物が高架道路の上から投身し亡くなるという衝撃的な事件からスタートする。BF社が畜産農家の市場を奪ったために、ユン・ジャユを恨む人々は世界中に存在していたのだ。

 その事故の現場に居合わせたのが、元軍人のウ・チェウン(チュ・ジフン)だった。彼はユン・ジャユにボディ・ガードとして接近するのだが……というサスペンスドラマ。脚本は『秘密の森』のイ・スヨン、監督をパク・チョルファンが務めている。

『支配種』©2024 Disney and its related entities

 有能な軍人として、普段は冷静な表情を見せるウ・チェウンだが、ボディガード採用の最終テストでは、ホログラムの相手と格闘する華麗なアクションも見せる。演じるチュ・ジフンのデビュー時期は2000年代中盤で経歴は長い。このコラムでは、チュ・ジフンの過去の作品を振り返ってみたい。

 モデル出身であったチュ・ジフンは、いくつかの短編ドラマなどに出演した後、韓国に王室があったとしたらという世界を描くドラマ『宮~Love in Palace~』(2006年)で、皇太子役としてユン・ウネとともに主演。回を追うごとに視聴率は上昇し、最高視聴率27%を記録した。

 ペ・ヨンジュンなど、当時の四天王と呼ばれた俳優たちは主に1970年代生まれであったが、1982年生まれのチュ・ジフンは新たなスターとして日本の韓流ファンにも人気となり、『宮』の放送時の韓流雑誌の表紙を数多く飾り、5000人クラスのホールでのファンミーティングを行っていた。当時、韓流の取材を多く行っていた筆者からすると、その人気は凄まじかったのだ。

 その後、『西洋骨董洋菓子店』を原作とする日本との合作映画『アンティーク 西洋骨董洋菓子店』(2008年) や『キッチン 3人のレシピ』(2009年)にも主演。兵役などで空白の期間があったが、除隊後に出演した映画『私は王である!』(2012年)や、ドラマ『蒼のピアニスト』(2012年)も話題となった。

『アシュラ』予告編

 彼にとっての転機はいくつかあると思うが、映画界において転機となったのではないかと思われるのが、2016年の映画『アシュラ』ではないだろうか。この作品でチュ・ジフンは、チョン・ウソン演じる主人公の刑事・ドギョンを慕う後輩刑事役を演じた。

 当時のチュ・ジフンは30代前半。この年代の俳優、特に韓流ブームの最中にドラマで人気を得た俳優が、新たなイメージを掴むのはたやすいことではない。

 というのも、映画界は『アシュラ』にも出ているチョン・ウソンやファン・ジョンミンなどのベテラン俳優の層が厚く、チュ・ジフンのような世代の俳優が生き生きとできる役は少なかった。

 また、先述のチョン・ウソンやファン・ジョンミンのほかに、イ・ジョンジェやハ・ジョンウ、チョ・ジヌンなどが活躍するような、「韓国映画」の中に、ドラマ出身の若手もしくは中堅俳優が入り込むのは難しい。韓国はいまでこそ、Netflixやディズニープラスなどの登場で規模の大きなドラマが作られるようになり、監督、俳優ともに映画界とドラマ界を行き来するようになり、その垣根はなくなりつつあるが、つい最近までは、映画監督がドラマを演出することも少なかった。映画俳優はほとんどドラマに出なかったし、ドラマ俳優が「ザ・韓国映画」に出演する事例も少なかったからである。

 しかしチュ・ジフンは、『アシュラ』という作品があったことで、彼らと同世代のドラマ出身の人気者の中では、比較的すんなりと映画の群像劇の中のひとりを演じる俳優の仲間入りをしたのではないだろうか。

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