『ゆとりですがなにか』に表れた宮藤官九郎の“葛藤” 劇場版がすくい上げた時代の空気感

『ゆとりですがなにか』宮藤官九郎の“葛藤”

 新作ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)では、昭和(1986年)から令和(2024年)にタイムスリップした男の視点を通して過去と現代の変化を描いた宮藤だが、平成28年(2016年)に作られたテレビドラマ版『ゆとりですがなにか』と令和5年(2023年)に公開された映画版を比較すると、わずか7年で社会の価値観がここまで急激に変わったのかと改めて驚かされる。 

 時代の急激な変化に翻弄されながらも、坂間は実家の坂間酒造の売上を少しでも増やそうとスマホでYouTubeの番組を作ろうとし、山路は小学校の授業でLGBTQについて教えることとなる。一方、まりぶは中国で新事業として展開したエビチリ専門店が失敗して日本に帰国。仕事がないため、坂間酒造に住み込みで働くようになる。

 本作には、久しぶりに再会した坂間たちが、次から次へと押し寄せてくるトラブルを乗り込えていく姿が描かれており、同窓会的な楽しさに満ちている。同時に今の日本で問題となっている社会的テーマが、隙間なく散りばめられており、テレビドラマ1クール分に匹敵する密度の高い情報量になっている。

 どのシーンも楽しいため、あっという間に時間が過ぎていくエンタメ映画の傑作に仕上がっている本作だが、テレビドラマとセットで観ると時代の変化が記録されたドキュメンタリーフィルムとしても楽しめるのが、本作のもうひとつの魅力だろう。

 移り変わっていく時代の空気が作品の中に組み込まれているのが『ゆとりですがなにか』の魅力で、だからこそ続編が作られたのではないかと思う。

 年を重ね、時代の価値観との間に隔たりが生まれるほど、坂間たちゆとり世代の苦悩は増していく。映画を見終えて、ゆとり世代と呼ばれたかつての若者たちが今後、どのような40代、50代を迎えるのか見守っていきたいと感じた。

 最後に、豪華版Blu-rayの映像特典にはスペシャルメイキングが収録されており、出演俳優たちが、今回の映画化やドラマ撮影時の思い出を振り返る様子と、水田監督が演出する姿を見ることができる。

 映像作品としても見どころが多く、大掛かりな撮影が多かった本作の現場の様子を知ることができる貴重な記録となっているが、注目なのが大勢の人々がコスプレをして街を練り歩き、DJポリスも出頭していた渋谷スクランブル交差点でのハロウィンのシーンの裏側。どう撮ったのかが気になる方は必見である。

■リリース情報
『ゆとりですがなにか インターナショナル』
Blu-ray&DVD発売中

豪華版Blu-ray:7,480円(税込)
通常版DVD:4,180円(税込)

【映像特典】※豪華版Blu-rayのみ
・スペシャルメイキング
・イベント映像集(完成披露試写会/初日舞台挨拶)

【封入特典】※豪華版Blu-rayのみ
・スペシャルフォトブックレット

脚本:宮藤官九郎
監督:水田伸生
音楽:平野義久
主題歌:「ノンフィクションの僕らよ」感覚ピエロ(JIJI Inc.)
制作プロダクション:日テレ アックスオン
発売元・販売元:VAP
©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

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