米空軍の父を持つ立場から観た『オッペンハイマー』 描写における“違和感”の正体とは
また、アメリカと比較して日本の教育機関がオッペンハイマーという人物を詳しく取り上げていなかったという問題点を改めて感じた。本作を観る前にアメリカ人の父が原爆投下を「戦争を終わらせるために必要なことだった」と話していたことに対する“違和感”も、原子爆弾の制作背景を知っていけばいくほど理解できるものに変わっていってはいた。しかし本作を観終えた自分の中にはまだこの違和感が存在していたのだ。
クリストファー・ノーラン監督は、意図的に原爆投下後の日本の描写を描いていない。それはオッペンハイマーの視点からみた原爆開発を描いた作品であり、米国市場での評価が重要視されたからという理由はあるが、「当事者がいたことに対する余韻」が描かれなかったことで、原爆投下に向かっていく時に感じるあの緊張感が最後まで昇華されないもどかしさがあった。
日本人の視点を持った私たちがこの作品をどのように観て、何を感じるのか。本作は日本人が観ることで初めて完結する映画であるともいえるだろう。
■公開情報
『オッペンハイマー』
全国公開中
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナー
原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン『オッペンハイマー』(ハヤカワ文庫)
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
2023年/アメリカ/R15
©Universal Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:oppenheimermovie.jp