『恋わずらいのエリー』は少女漫画原作の活路となる? “松竹キラキラ映画”の変遷

 いわゆるティーン向けという大きなくくりを牽引する作品が、少女漫画原作からノベル原作へとシフトしつつあった近年。2023年末に『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が大ヒットしたことによって、形成逆転は決定的なものとなった。2014年と2015年に過渡期を迎え、2017年と2018年には年間10本以上の作品が量産されたものの興行的成功には至らず、結果的に2020年代に入ると同時に低迷の一途を辿ることになった少女漫画原作の“キラキラ映画”。現状ではその衰退を止めるのは決して容易なことではないだろう。

賞味期限に敏感な“松竹キラキラ映画”

 “飽きられた”と考えるのが妥当かもしれないが、そう切り捨ててしまっては少々短絡的かもしれない。少なくとも、その低迷期でも果敢にこのジャンルに挑み続けている松竹作品ーーここでは“松竹キラキラ映画”と名付けることにしようーーにこそ、復権の手掛かりがあるのではないだろうか。2021年の『ハニーレモンソーダ』は10億円、2022年の『モエカレはオレンジ色』は7.7億円、そして昨年の『なのに、千輝くんが甘すぎる。』は10.1億円と、年1本のペースでジャンルを存続させながら興行的にもまずまずの成績を維持しているのだから。

 この3作品の共通点として挙げられるのは、映画公開時に原作が連載中であったということである。よくよく振り返ってみれば、2014年から2019年の6年間で製作された同ジャンル(少女漫画雑誌に掲載された、中高生の恋愛模様を主題に描いた作品)の40作品以上があるなかで、連載中に映画公開を迎えた作品は11本しかない。そのうち6作品が興収10億円以上というヒットの基準を超え、2作品が9億円以上。その計8作品には邦画大手3社やワーナーの邦画部門が手掛けた作品だけでなくショウゲート配給の中規模公開作『黒崎くんの言いなりになんてならない』も含まれているので、ヒットにつながる重要なファクターであったことがよくわかる。

 原作の読者層と映画のターゲットは基本的に一致しており、そのターゲットである中高生が中高生でいられる期間は6年間しかない。映画の企画発足から公開までは早くて2年ともいわれており、ある程度流行った作品を映画化しようとしたら、公開の時にはもう連載が終わっている可能性も高い。そうでなくても作品の大筋がどれも似たり寄ったりというジャンルの性質と、興味の移り変わりの激しい時代と世代も相まって、よほどそのタイミングのターゲットにピッタリと符号する作品でない限り選んではもらえない。要するに、“賞味期限”が想像以上に短いのだ。

 その賞味期限が切れる前に、いかに原作を見つけだして映画化することができるか。もちろん連載が終了した後であっても、そこに映画化するだけの付加価値を与えることができたのなら成功する例はある。“松竹キラキラ映画”は、その辺りにかなり敏感ではないだろうか。先述の連載中公開で興収9億円以上を稼ぎだした8作品中4作品が松竹の作品(『好きっていいなよ。』『PとJK』『兄に愛されすぎて困ってます』『午前0時、キスしに来てよ』)。連載終了作品でも『ホットロード』や『ピーチガール』といった伝説級の人気作に挑み、また『虹色デイズ』は連載終了後の公開ではありつつも、コミックスの最終巻の発売が映画公開直前という格好のタイミングであったのである。

ジャンルの今後を見つめ直した『恋わずらいのエリー』

 さて、ここからが本題である。現在公開中の『恋わずらいのエリー』は、2015年から2020年にかけて連載された作品。つまり連載開始時に主人公と同じ高校1年生だった世代はすでに社会人になっており、完結時に高校生だった世代もみんな大学生になっている。そういった意味では賞味期限切れギリギリか、厳しく見積もればアウトとも捉えられる。ちなみに松竹と講談社『デザート』連載作品の組み合わせは『好きっていいなよ。』『モエカレはオレンジ色』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』に続いて3年連続4作目。前2年の成功例を踏まえ、ジャンルの今後を見つめ直すためのゲームチェンジャーとしてあえて完結済みの作品を選んだようにも思えてならない。

 作品の土台は現代の少女漫画のテンプレート通りである。ヒロインのエリー(原菜乃華)は従来の同ジャンルで頻繁に見られたようなあからさまに自己肯定感の低い少女ではなく、人付き合いは決して上手くはないが概ねポジティブな性格で根が真面目。そしてどこか拗らせた感じの変態的な趣味趣向を持ち合わせている。

 対して相手役のオミくん(宮世琉弥)は、学校一のイケメンという定番でありつつ、心を許した相手にしか素を見せない。口が悪く、子どもじみた横柄な性格がありながら、あっという間にヒロインに心奪われて徹底的に甘えてかかるという、面倒でちょろいタイプだ。メインカップルのトーン自体は『千輝くん』と近いものがある。また、ヒロインとの出会いによってイケメンに変化のきっかけが与えられること以外、これといって恋愛に発展するに足るだけの決定的な出来事がないのも最近では珍しいことではないだろう。

 ではどこで、実写映画として“魅せる”のか。それはやはりストーリーの運び方と、原作の扱い方、そして帰結点の見出し方といった脚色のテクニックに他ならない。参考までに、今作と同じようにコミックス全12巻で原作が完結していた『思い、思われ、ふり、ふられ』を例にしてみると、そこでは4人のメインキャラクターの心理模様を恋愛と成長の相互関係のもとで描写しながら、原作の“あらすじ”を一気に2時間弱の映画のなかに圧縮するような脚色が為されていた。対してこの『恋わずらいのエリー』は、原作の“要素”をかなり細かいところまで一度バラバラにほどいてから、基本的な筋書きに沿って再構築されている。むしろこれは、原作が完結しているからこそできるやり方ではないだろうか。

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