『ブギウギ』が問い続けた“エンタメは誰のためにあるのか” スズ子が最後に対峙する“時代”

『ブギウギ』が全話を通して問い続けたもの

 それは第24週「ものごっついええ子や」で、娘・愛子(このか)の誘拐騒動があったときのこと。事件は未遂に終わるものの、生活に困窮していた愛子の同級生の父・小田島(水澤紳吾)が犯人だったと知り、スズ子は再びエンターテインメントの限界を感じることになる。なにかあったら自分の歌を聴いて、束の間でもいいから辛いことを忘れてほしい。だが、その歌は“本当に困っている人たち”に届いているのだろうかと。

「所詮は余裕のある人間が作って、余裕のある人間たちだけが楽しんでいるんじゃないか。そんなふうに思ってしまうことは僕にもあるんだ」
「実は僕たちなんか、何もできないのかもしれないよ」

左から、羽鳥麻里(市川実和子)、羽鳥善一(草彅剛)、福来スズ子(趣里)。 羽鳥の家・居間にて。善一や麻里に愛子のことなどを相談するスズ子。

 最前線で活躍する羽鳥のセリフは、かつての梅吉のセリフとほぼ同じ意味を示しているが、エンターテインメントの当事者である羽鳥から発せられたその響きは、何倍も重かった。

 しかし、『ブギウギ』は、エンターテインメントを諦めたわけではない。悩みながらも歌うしかないと覚悟を決めたスズ子と共に、それでも「エンターテインメントにできることはなにか」を模索しつづけてきた。本来なら交わることがなかったかもしれないおミネ(田中麗奈)率いる夜の女たちや、病に伏すタイ子(藤間爽子)、小田島との関わりを描き、スズ子の肉体を通して、エンターテインメントの魂はどんな人にも寄り添うことを表していたのである。

 国民的スターになった福来スズ子の生涯をかけて、考えつづけられてきた問いかけは、もうすぐ答えを出そうとしている。歌手としては向かうところ敵なしだったスズ子が、クライマックスで対峙するのは、亡き大和礼子(蒼井優)の面影を感じさせる次世代のスター・水城アユミ(吉柳咲良)と、常に真新しいものを求める“時代”そのものだ。

 スズ子にとって、歌とは、エンターテインメントはなにか。その答えのヒントは、彼女の人生に散りばめられた「ズキズキ」「ワクワク」の中にあるような気がする。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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