『デューン 砂の惑星PART2』は映画史に刻まれる作品に 超絶的スペクタクルと“倫理的葛藤”
ある試練を経て、未来予知の能力に目覚めたポールは、この世界において法により使用が禁止されている核兵器を使用しなければ勝利はあり得ないことを知っていて、それを選ばざるを得なかったのは確かだろう。しかし、そうやって得た勝利を得ようとするポールの陣営は、果たして正義なのかということに、観客は思いを巡らせることになるはずである。
そんな逡巡を感じさせたまま、本作は大規模な戦闘が展開されるシーンへとなだれ込む。巨大な砂虫が暴れまわり、砂漠の民の戦士たちが死を恐れずに突き進んでいく光景の凄まじさは、映画史に刻まれるような、超絶的なスペクタクルとして表現されている。これを鑑賞するためだけでも、映画館に駆けつける意義があると言っても良いと思えるほどである。そして、そんな圧倒的な場面をよりカオティックにしているのが、前述した“倫理的葛藤”という、精神的な部分なのだ。
ポールは復讐する過程で、地位や人望、そして大量破壊兵器での虐殺に手を染めなければならなかった。最終的には自分の心や愛する人の心までをも裏切り、政略的な判断を選ぶこととなる。われわれ観客は、悲劇のポールに心を寄せて一度は復讐を願ったはずであるが、結局は一周して、力が力をねじ伏せる蛮行の繰り返しを目撃しただけではないのか。そんな呪われた無常の運命へと突き進まざるを得ない人間の業(ごう)と、現実の人類史の本質部分の暗示こそが、前作、本作でたどり着いた境地だったのではないか。観客は、ラストシーンでそんな狂気から去ろうとする人物にのみ、心を寄せられなくなっていくのである。
映画史においては、このような心をかき乱される戦争、宮廷劇を描いた名作として、ロシアの巨匠セルゲイ・エイゼンシュテインの『イワン雷帝』「第1部」(1944年)、「第2部」(1946年)がある。民衆を率いて外敵から国を守った実在の英雄が、後年には猜疑心に支配され、同胞を粛清していくという価値の転倒が描かれるのだ。大事な人々を守ろうとする自衛の戦いのための力が、いつしか理性を欠いた、とめどない暴力へと変化していく。
現在、現実のロシアが本作のように核兵器を保有し、ウクライナを侵攻しながら諸外国に核使用をちらつかせることで牽制していることを考えれば、本作で描かれる悪夢的な破壊の光景と、新たな敵との対峙による、さらなる悲劇の予感は、まさに現在の世界における恐怖をそのまま描いていると思わせる。まだまだ続く原作の物語を、ヴィルヌーヴ監督が映画シリーズとして手がけていくのかは未定ではあるが、少なくとも現時点までの2作において、当初提示したテーマや、現在われわれを取り巻く世界の問題は、ひとまず描ききったといえるのではないだろうか。
ヴィルヌーヴ監督の表現するビジュアルは、彼のSF映画『メッセージ』(2016年)におけるシンプルなフォルムの宇宙船に代表されるように、極限まで削ぎ落としたモダンさが特徴的だ。しかし、同じ題材を手がけていたアレハンドロ・ホドロフスキー監督や、デヴィッド・リンチ監督らの作風に比べると、鮮烈なイメージに欠けるところがあったのは確かである。
ファッションのトレンドにおいて、2010年代に極度にシンプルな「ノームコア」と呼ばれる装いが世界的に流行したように、ヴィルヌーヴ監督は無駄な装飾を剥ぎ取っていくようなミニマルスタイルの時代を映画というフィールドで体現する存在だったように感じられる。しかし、その後またデコラティブな方向へと時代の気分が変化したことを象徴するように、シンプルモダンをさらに先鋭化させた前作『DUNE/デューン 砂の惑星』の表現は、いささか時代遅れな面があったように感じられた。
しかし本作では、前述したようなカオティックなスペクタクルや、倫理観の崩壊、オースティン・バトラーが演じる、フェイド=ラウサ・ハルコンネンに代表される破滅的な生き方という、映像や物語、思想などの要素がより複雑に絡み合うことで、デザイン部分のシンプルさが、全体のなかで中和的な役割を果たし、結果的に完成度を高める結果になったようにも感じられる。
気鋭の監督からベテランの域となった、いまのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、これからどのような方向に進むのか、どんな題材でどういったテーマで後続のクリエイターたちと張り合っていくのかは楽しみだが、前作と本作『DUNE/デューン 砂の惑星』2作が、彼のこれまでの映像作家としての集大成になったと同時に、映画史のなかで一つの重要な位置を占めるものとなったことは確実だろう。
■公開情報
『デューン 砂の惑星PART2』
全国公開中
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
撮影:グリーグ・フレイザー
出演:ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、デイヴ・バウティスタ、クリストファー・ウォーケン、レア・セドゥ、ステラン・スカルスガルド、シャーロット・ランプリング、ハビエル・バルデム
配給:ワーナー・ブラザース映画
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