『君が心をくれたから』雨と太陽のファンタジックな“奇跡” 数年後に果たされた未来の約束

『君が心をくれたから』雨と太陽の“奇跡”

 太陽(山田裕貴)の作った花火を見る――10年前に交わした約束が果たされようとしたそのタイミングで、視覚を奪われてしまった雨(永野芽郁)。そんな救いのない状態のまま、残された聴覚を失うまで残り1週間というカウントダウンが始まってしまう。3月18日に放送された『君が心をくれたから』(フジテレビ系)は最終話。雨の五感がすべて失われ、ついに“奇跡”が終わる瞬間が訪れる。

 日下(斎藤工)づてに、“3月31日午後4時”がタイムリミットであると知らされた太陽は、雨と残された時間を笑いあって過ごそうと約束を交わす。2人で観覧車に乗り、公園に行き、そして雨は太陽と出会った高校に最後に行きたいとお願いする。教室で思い出を語り合うなか、雨は最後のお願いとして、「私のことを二度と思い出さないで」と告げる。その言葉を最後に、太陽が思っていたよりも1時間早く雨の聴覚は失われてしまう。途方にくれる太陽の前に現れた日下は、「奇跡はまだ終わってません」と彼に伝えるのである。

 「奇跡とは、与えられた奇跡に対し何を思い、どんな選択をするか見つめるためにある」。そう語りはじめた日下は、太陽にある選択を委ねる。太陽の命を救うために自らの五感=心を差し出すことを決断した雨。その心を構成する5つのパーツがすべて捧げられたいま、今度は太陽がそれを受け取るのか否かという選択をする立場に置かれる。断れば太陽は午前0時に命を落とし、雨に心=五感がすべて戻されるという。太陽は迷うことなく“返す”ことを選択する。すると、目を覚ました雨は五感が戻っていることを実感するのだが、太陽がもうこの世にいないという重い事実に直面することになるのだ。

 太陽は最初から死ぬ運命にあり(むしろ3カ月前に死んでいるはずだったわけで)、“奇跡”とは思い残したことをやり遂げる、伝え残した思いを誰かに届けるための単なる猶予に過ぎなかったのだと捉えれば、これまでの残酷な展開も少しは飲み込めるような気がする。“奇跡”があったから太陽は幼いころに死別した母・明日香(松本若菜)とも再会できたわけだし。むしろそう考えると、この物語の主人公は太陽だと見えてしまうのだが、第6話にあった「生きてる間に心を分け合う」という言葉を踏まえれば、明確に雨と太陽、2人の物語と捉えることも充分に可能である。

 唐突な別れにはぽっかりと心に穴が開くような悲しみが伴うが、猶予が与えられた別れには、悲しいということ自体は変わらずとも救いはある。とはいえ現実にはそんな“奇跡”は訪れない。聴覚が奪われるまでのカウントダウンが始まる直前に雨がぽつりと言った、「大切にします、最後の1秒まで」の言葉。人はいずれ死ぬ運命にあることは抗えない事実であり、そこまでの長い猶予のなかを生きている。だからこそ1分1秒を大切に、というすごくシンプルで直球なメッセージが、このファンタジックな“奇跡”のなかには込められていたのだろう。 

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