『バーナデット』は忙しい人にそっと寄り添う一作 大自然で見つけた新たな“自分らしさ”

『バーナデット』は心にそっと寄り添う一作

 リンクレイター監督はバーナデットのキャラクターについて、自分の母親のような女性を描いたと語っている。「自分の母が妥協するのを見てきた。母の世代は子育て優先でキャリアは後回しだった。母には夢があったのに、自分(子ども)たちが邪魔をしている気がした。(中略)母はそのことで重いストレスを抱えていたから、母のような女性を本作で描いたんだ」と言う(※)。

 自身のクリエイティビティを発揮できない状況に置かれたバーナデットは、創造への情熱を周囲の悪口を言うことで発散させるようになってしまう。しかし、南極への逃避行をきっかけに、「自分らしさ」を再発見していくのだ。本作で素晴らしいのは、彼女が再発見した「自分らしさ」のなかに、娘や夫との関係も含まれているということだ。結婚や出産を経て「やはりキャリアを追求したい」と願った女性が、家庭も自分の大事な一部として抱いたまま、再出発することは容易ではないかもしれない。しかし本作でそれを可能にするのは、これまでに何度も触れた「娘との強固な絆」だ。バーナデットが再発見した「自分らしさ」は、かつての結婚・出産以前の「自分らしさ」とは変わっていた。しかし、それをそのまま受け止めてくれる家族のおかげで、彼女は解放されてゆく。

 美しい南極の映像も本作の見どころの1つだ。1人で家を飛び出し、バーナデットがやってきた南極は、圧倒されるような白と静寂の世界。観る者の心も浄化するような氷山と海だけの美しい風景に目を奪われる。バーナデットは氷に囲まれた海の上で「あなたは誰?」と問われ、「自分でもそれを考えていた」と返す。彼女は日常生活で見失っていた「自分らしさ」を、一般的な社会とは断絶された大自然のなかで、一度手放し、もう一度手に入れる。

 『バーナデット ママは行方不明』は、“普通の”生活に縛られ、身動きが取れなくなっていたバーナデットが解放されていく物語だ。彼女のように天才芸術家ではなくても、誰しも自分が受け持っている社会的な役割に息苦しさを覚えることもあるだろう。そんなとき、優しく寄り添ってくれるこの物語を、ぜひ多くの人に観てほしい。

参照

※ https://www.youtube.com/watch?v=6w0ZoIrNhcQ

■リリース情報
『バーナデット ママは行方不明』
Blu-ray&DVD発売中
Blu-ray:5,280円(税込)
DVD:4,180円(税込)

<封入特典> ※Blu-ray&DVD共通
・オリジナルステッカー(予定)

<法人別購入者特典>
Amazon.co.jp:ビジュアルシート2枚セット
VAPSTORE:オリジナルポストカードセット
※数量限定
※一部取り扱いのない店舗あり

出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、クリステン・ウィグ、エマ・ネルソン
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
2019年/アメリカ/原題:Where’d You Go, Bernadette/日本語字幕:石田泰子
提供:バップ、ロングライド
発売・販売元:バップ
©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://longride.jp/bernadette/

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