『忍びの家』海外ヒットの理由は”Ninja”にあり? 日米共作で生まれた新しい忍者像

『忍びの家』海外ヒット狙ったNinja演出

そもそも日本人の忍者イメージも事実と異なる

 『忍びの家』で描かれる忍者像は、日本人にとっては馴染み深いものばかりだ。黒装束で背中に刀を背負い、屋根などの高いところを縦横無尽に駆け抜け、素早い動きで相手を圧倒、時にはバスの車体に貼り付くといった高い身体能力を発揮する。忍者もののお約束を踏襲していると思しき描写の数々だ。

 また、人知れず活動し、普段はそのすごい能力を隠しているという設定も、忍者ものによく見られるものだ。その能力は屋根瓦を修理したり、自動販売機の補充をしたりといった仕事や日常の活動の中で発揮される(時には万引きにも利用される)という現代忍者ならではのコミカルな描写も見られる。しかし、いざという時には、その力を発揮して人知れず闇を葬る、という存在で、描写も設定も典型的な忍者ものと言える。

 日本で作る忍者ドラマなのだから、日本人がよく知る“リアル”な忍者を描いているのだと思う人も、もしかしたらいるかもしれない。だが、念のために断っておくと、これら日本人にも馴染み深い忍者の特徴は、歴史上の実際の忍者とはあまり関係がない。本当の忍者は諜報活動任務のために、目立たないように市井の人々と同じ格好(農民や町民の格好)をしており、黒装束など着ていないし、手裏剣も投げない。日本人が抱く忍者のイメージは、ほとんどフィクションの作りごとであって、リアルではないのだ。(※3)

 つまり、日本人も忍者に対して、思いっきり間違ったイメージを抱いているのであって、海外のことをとやかく言えないのだ。

 そういう間違って伝わったイメージを正確なものへと変えるために努力するのも大切だ。忍者ものではないが、真田広之はドラマ『SHOGUN 将軍』で、間違っていたハリウッドの日本描写を矯正すべく情熱を注いでいた。だが、正確な描写ばかりが重要なわけではないと筆者は思う。忍者およびNinjaというものは、文化の誤読や勘違いがいかに発展・伝番し、それが新たな潮流を生むのかについて、興味深いケースではないかと思う。

 本物の忍者とは全く関係ないイメージを流布したことに対して、コスギ氏自身はどう感じているのかというと、「概念というものは、受け止められる場所や文化が異なれば変化しますし、ときに進化もするもので、こうした流れは止められるものではない」と語っていた。その通りだと思う。文化とは常に大なり小なり誤読を交えて伝わり、誤読もまた発展の肥やしになるものだ。

 実際、『NARUTO -ナルト-』のような日本のマンガですら、そうした海外のNinja概念に影響されている面もあるだろう。一つの文化が海を渡り、帰ってきてさらなる発展をし、さらに海外で大人気となったという幸福な事例だ。

 『忍びの家』もそうした逆輸入現象の産物と言えるだろう。すごい力を秘めた忍者が正体を隠して現代に生きている、しかも、自動販売機の補充(海外観光客は自動販売機が大好きなことを意識しているのだろうか)でその特異な力を発揮している。黒装束から覗く、賀来賢人の目力も強くていい。

 この作品が海外でヒットしているのは、そういう文化の流れを踏まえると実に興味深いことだ。日米のスタッフが協力して作っている点も含めて、新たなNinja像を生みだし、Ninjaカルチャーのさらなる発展を促すことを期待したい。

参照
※1. https://naruto-official.com/news/01_1488
※2. https://www.dictionary.com/browse/ninja
※3. https://president.jp/articles/-/65904

■配信情報
Netflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』
Netflixにて全世界独占配信中
出演:賀来賢人、江口洋介、木村多江、高良健吾、蒔田彩珠、宮本信子、田口トモロヲ、柄本時生、嶋田久作、ピエール瀧、筒井真理子、番家天嵩、山田孝之
原案:賀来賢人、村尾嘉昭、今井隆文
監督:デイヴ・ボイル
脚本:デイヴ・ボイル、山浦雅大、大浦光太、木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明
制作プロダクション:TOHO スタジオ
製作:Netflix

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