“アラサー主人公”はいつから増えた? 『怪獣8号』『無職転生』『ザ・ファブル』への期待

春アニメは”アラサー主人公”が活躍?

『ザ・ファブル』

©︎南勝久・講談社/アニメ「ザ・ファブル」製作委員会

 
 殺しも殺したり6年間で71人。天性の才能で幼少期から殺し屋として頭角を現し「ファブル」と呼ばれるようになった男が、育ての親で殺し屋組織の長から休業を命じられ、大阪に行って1年間、佐藤明という名の一般人となって誰も殺さない生活を送ることになる。南勝久の漫画『ザ・ファブル』は、命令に従って寡黙に暮らそうとする明が、日常生活の中でもところどころで現実離れした振る舞いや、殺しの天才らしい俊敏さをのぞかせるギャップに笑いつつ、時折見せる圧巻の活躍に溜飲を下げる展開で読者を楽しませている。

 傍目で見ても楽しい佐藤だが、内にとてつもない才能を秘めているからこその余裕をもった振る舞いにも憧れる。自分にもきっと何かしらの才能があるはずだ、あるいはその時が来たら自分だって本性を発揮できるはずだといった願望を、満たしてくれるところも人気の背景にあるのだろう。こうした人気を受けて、岡田准一が佐藤を演じた映画が2本作られ大ヒット。岡田のアクション俳優としての凄さが評判になった。

【ティザーPV】『ザ・ファブル』TVアニメ化決定──!!!

 4月6日から日本テレビ系で始まるTVアニメでは、佐藤の殺し屋としての腕前と、日常生活での滑稽ぶりがどのように表現されるかが注目ポイントだ。そのTVアニメを監督するのが『装甲騎兵ボトムズ』や『ガサラキ』といったアニメでハードな戦場を描いてきた高橋良輔だというところに、アニメファンの関心も高まっている。

 危険な戦場を渡り歩いて、戦い続けながら生き延びたキリコ・キュービィーという主人公を造形し、寡黙なヒーローの姿をアニメの世界に打ち立てた高橋監督なら、明の持てる殺しの才能を抑えながら日常を生きる姿を、巧みに表現してくれるに違いない。

 高橋監督は、3月8日から11日まで開かれた東京アニメアワードフェスティバル2024で、『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』の上映に際して登壇。そこで、作者が登場人物を通して表現している日常をどう生きるかといった考え方に「共感するところが多い」と話した。「映像になってこんなものかと思われないようなものにしたい」とアニメで原作の面白さを描ききる考えも表明。81歳にもなる超ベテラン監督を奮い立たせるだけあって、『ザ・ファブル』も全世代に響くアニメになりそうだ。

『無職転生 II ~異世界行ったら本気だす~』

©理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生Ⅱ」製作委員会

 年配者が活躍するとアニメといえば、異世界転生・転移ものもあてはまる。人生を送る中で行き詰まりやしがらみが出て来た生活を、変えてくれるきっかけを求めている人が少ないことが、こうしたジャンルの隆盛を後押ししているとも言える。ぶんころりの小説を原作に、1月から放送中の『佐々木とピーちゃん』は、アラフォーのおっさんが癒やしを求めて購入した文鳥が実は異世界の大賢者で、その導きもあって異世界に行って財をなしつつ、現世でも覚えた魔法の力で活躍する様が中年に夢を見させた。

『無職転生Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』第2クールPV/4月7日より毎週日曜放送開始/無職転生2期

 理不尽な孫の手の小説を原作に、4月7日からTOKYO MXなどで第2期の放送が始まるTVアニメ『無職転生 II 〜異世界行ったら本気だす〜』も、引きこもりを続けた挙げ句に家を追い出された34歳のニートが、事故に遭って異世界に転生し、そこで前世の魔法の才能を伸ばし、前世の知見も活かして活躍し始める姿が、今とは違う場所に行きたいといった憧れをもたらす。

 もっとも、転生してルーデウス・グレイラットという名になった主人公は、大異変の中で前世にはなかった苦難を味わうことになる。それでも頑張る姿が、観ている人を自分も頑張ろうという気にさせる。少年や少女が情熱だけを糧に冒険を繰り広げるものだったアニメが、年配者たちの願望を充足するものに変わりつつあるが、ただ溺れるのではなく、そこから次の1歩を踏み出す勇気も与えてくれている。

 そんな作品たちを経ることで、日比野カフカのようなアラサーのチャレンジャーが現実に生まれ、世界を変えてくれるかもしれない。

■放送情報
『怪獣8号』
テレ東系:4月13日(土)スタート 毎週土曜23:00~放送
BSテレ東:4月13日(土)スタート 毎週土曜24:00~放送
AT-X:4月14日(日)スタート 毎週日曜22:00~放送
アニマックス:4月27日(土)スタート 毎週土曜21:00~放送
キャスト:福西勝也(日比野カフカ/怪獣8号役)、瀬戸麻沙美(亜白ミナ役)、加藤渉(市川レノ役)、ファイルーズあい(四ノ宮キコル役)、河西健吾(保科宗四郎役)、新祐樹(古橋伊春役)、河本啓佑(出雲ハルイチ役)、武内駿輔(神楽木葵役)、千本木彩花(小此木このみ役)
原作:松本直也(集英社「少年ジャンプ+」連載)
監督:宮繁之 神谷友美
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン・総作画監督:西尾鉄也
怪獣デザイン:前田真宏
美術監督:木村真二
色彩設計:広瀬いづみ
3D監督:松本勝
撮影監督:荒井栄児
編集:肥田文
音響監督:郷文裕貴
音楽:坂東祐大
オープニングテーマ:YUNGBLUD「Abyss」
エンディングテーマ:OneRepublic「Nobody」
怪獣デザイン&ワークス:スタジオカラー
アニメーション制作:Production I.G
©防衛隊第3部隊 ©松本直也/集英社
公式サイト:https://kaiju-no8.net
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/KaijuNo8_O

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