『劇場版 アーヤと魔女』に漂う“ジブリらしさ”と“らしくなさ” 3DCGアニメの新潮流に?

『劇場版 アーヤと魔女』が目指す独自路線

 宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』が第96回アカデミー賞の長編アニメ賞を獲得して、改めて世界にその実力を示したスタジオジブリ。手で線を引いて描いた絵をつなげて動きを表現する作画アニメの最高水準を示した形となったが、そんなスタジオジブリにあって異色とも言える作品が、3月15日に『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放送される宮崎吾朗監督の『劇場版 アーヤと魔女』だ。コンピュータ上でキャラクターを造形し、モニターの中で動かして演技させる3DCGの手法を使って作られたアニメだが、キャラの表情や動き、そして物語の雰囲気にはジブリらしさも漂っている。

 人形のように立体感を持ったキャラクターたちが、広がりと奥行きを持った世界を縦横無尽に動き回る。『アーヤと魔女』を観た人がまず感じるのは、背景も含めてあらゆるものを作り手の感性の中でデザインし、描いていく宮﨑駿監督や高畑勲監督らによるジブリ作品とは一線を画したルック(見た目)への驚きだ。

 制作スタジオを知らされないまま『アーヤと魔女』を観た人は、『魔女の宅急便』や『千と千尋の神隠し』と同じスタジオジブリ作品だと思わず、『トイ・ストーリー』や『アナと雪の女王』といったピクサーやディズニーの系譜に連なる作品と感じるかもしれない。宮崎吾朗監督が先に手がけたTVシリーズ『山賊の娘ローニャ』を作ったポリゴン・ピクチュアズが、3DCGの映像を2Dのアニメに見せるトゥーンシェードの技術を敢えて使わず、3DCGらしさを見せようとして作った作品と思う人もいるかもしれない。

 もっとも、現存するスタジオで最も長い歴史を持つCGスタジオのポリゴン・ピクチュアズですら、『亜人』の頃から2Dライクなルックを探っている。『空挺ドラゴンズ』でひとつの到達点に達し、最新作『アイドルマスター シャイニーカラーズ』では2Dが得意とする美少女アイドルが歌い踊る世界を、トゥーンシェードによって描くまでになっている。だからこそ、天才的なアニメーターの宮﨑駿監督を擁し、手描きのアニメにとことんこだわっているように見えるスタジオジブリから、『アーヤと魔女』のようなルックの作品が出て来たことに、誰もが驚いたし違和感を覚えた。

 宮﨑駿監督本人はもちろん、作画監督の本田雄を筆頭に凄腕のアニメーターを集めて作った『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞を受賞した今、ディズニーやピクサーだけでなく、『シュレック』で知られるドリームワークスや、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を作り出したイルミネーションといった3DCGによるアニメに観衆は飽きていて、そこに人間の手が作り出した映像が刺さったといった意見が出始めている。

 アカデミー賞では『君たちはどう生きるか』に敗れたものの、アニー賞では勝利した『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』も、3DCGでありながらカートゥーンと呼ばれる2Dアニメを意識したルックで評判を呼んだ。そうした潮流に逆行するような、バリバリ3DCGの『アーヤと魔女の家』がスタジオジブリ作品らしくないと思われるのも当然だ。

 もっとも、『アーヤと魔女』を観ているうちに、ルックはともかくキャラクターの動きや表情、そして世界観にスタジオジブリ作品らしさを感じ、むしろスタジオジブリだからこそ生み出せた3DCGアニメだといった思いも浮かんでくる。何しろキャラクターたちの表情が、誰も彼もとても豊かなのだ。仕草も動きも、『千と千尋の神隠し』の千尋や『となりのトトロ』の五月とメイのように観ていて楽しい。

 10歳まで孤児院で育ち、ようやく引き取られた先がベラ・ヤーガという魔女の家だったアーヤは、そこで魔法を教わるはずが家事にこき使われる。だからといって沈むことなく、黒猫トーマスの力を借りながら反撃していくアーヤの強さが、くるくると変化する目や大きく開けて笑う口に現れ、物語の世界で命を持って生きている少女だと感じさせる。決して3DCGで造形された人形とは思えない。

 手で描いた絵に命を吹き込むのも、3DCGで造形されたモデルに生命感を与えるのも、共にアニメーターの仕事であり演出家の仕事だ。宮﨑駿監督が自分を含めたアニメーターたちの技術で絵を動かす一方、宮崎吾朗監督は『山賊の娘ローニャ』でアニメーションディレクターを務めたタン・セリらの力を借り、3DCGのキャラクターに動きをつける「リグ」と呼ばれる仕組みを練り上げ、活発なアーヤに恐ろしげなベラ、そして威圧感のあるマンドレークといったキャラクターたちを作り出した。

 そんなキャラクターたちをデザインしたのは、スタジオジブリで『魔女の宅急便』や『コクリコ坂から』のキャラクターデザインを務め、『山賊の娘ローニャ』にも関わった近藤勝也。スタジオジブリらしさという意味では、『君たちはどう生きるか』の本田雄よりも濃いデザインをできるクリエイターの構想を、各所で活躍してきた3DCGのエキスパートがしっかりと表現しただけあって、そこかしこにスタジオジブリのテイストが漂うキャラクターができあがった。

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