『劇場版 アーヤと魔女』に漂う“ジブリらしさ”と“らしくなさ” 3DCGアニメの新潮流に?

『劇場版 アーヤと魔女』が目指す独自路線

 そして物語。『アーヤと魔女』の原作は、『ハウルの動く城』と同じダイアナ・ウィン・ジョーンズで、国内外の童話や児童文学を取り入れてストーリーを作ってきた宮﨑駿監督の系譜を受け継いでいるとも言える。スタジオジブリで『思い出のマーニー』を手がけた米林宏昌は、やはりスタジオジブリでプロデューサーを務めた西村義明が設立したスタジオポノックで、これも英国の児童文学を題材に『メアリと魔女の花』を作った。それはジブリテイストが感じられる2Dのアニメだった。宮崎吾朗はスタジオジブリの中にあって果敢に3DCGに挑んだ。

 『アーヤと魔女』はその意味で、スタジオジブリが向かうひとつの道を指し示していると言える。今は『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞を獲得したことで、手描き礼賛の声が起こっている。3DCGのキャラクターには2Dアニメのような情感はやはり出せないと言う人も現れそうだが、それは違う。『アーヤと魔女』のキャラクターには表情にも仕草にも情感が表れている。そうした表現を技術の探求によって可能にしている。

 『君たちはどう生きるか』を礼賛する声が上がろうとも、3DCGアニメが臆する必要はない。2Dに劣っているということも絶対にない。それぞれに違うルックの中で、それぞれができる表現を探求していくことが大切なのだと、『君たちはどう生きるか』が持ち上げられている最中に放送される『アーヤと魔女』が教えてくれるだろう。

 3DCGならではの良さを言うなら、圧倒的な質感の再現力がある。ネップを混ぜたヘリンボーンツイードのジャケットはとても柔らかそうで暖かそう。蛇を細く刻むために走らせるナイフの下に置かれた、無数の痕が刻まれた木製のテーブルを始めとしたインテリアも、グツグツと煮込まれた挽肉にトマトソースが混ぜられたラグーのような食べ物も、どれもリアルで実在しているかのようだ。

 そうした質感を、デフォルメさせたキャラクターと同居させて描くことによって、現実の世界にファンタスティックな魔女や悪魔が生きて、日々の暮らしを送っているのかもしれないと思わせる。これは、全体のトーンをキャラクターに合わせて描く2Dのアニメでは味わえない感覚だ。そうした目新しさを打ち出しつつ、物語や動きでスタジオジブリらしさを踏襲していった先に生まれる、ディズニーやピクサーとは違った3DCGアニメが出てくることが期待される。

■放送情報
『アーヤと魔女』
日本テレビ系にて、3月15日(金)21:00~22:54放送
※ノーカット
監督:宮崎吾朗
企画:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:武部聡志
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
声の出演:寺島しのぶ、豊川悦司、濱田岳、平澤宏々路 、シェリナ・ムナフほか
©2020 NHK, NEP, Studio Ghibli

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