『ロ・ギワン』ソン・ジュンギが脱北者の過酷な生活を体現 133分に詰め込まれた社会問題
本作は、チョ・へジンの小説『ロ・ギワンに会った』を原作に、本編で長編監督デビューを果たしたキム・ヒジンによる監督・脚本作品だ。ヒジン監督のインタビューによると、「(脚本の)執筆当時からギワン役にソン・ジュンギをイメージし、オファーしたが断られた」としている。ソン・ジュンギは、「6、7年前にシナリオをもらい、素晴らしいと思ったが、当時は自分がどうしても共感できない部分があり断った。その後クランクインしたという話を聞かなかったこともあり、なぜ断ってしまったんだろうと後悔していたが、『財閥家の末息子』の撮影中に再び出演オファーが来た。これはもう縁だなと感じ、自分が出演すべき作品と考えて出演を快諾した」と制作秘話を明かしている(※)。
ロ・ギワンは、ソン・ジュンギを待っていたのだ。そして、それに応えてソン・ジュンギは、過酷なロ・ギワンの人生を体現している。極寒の中を汚れた薄着で彷徨い歩き、公衆トイレで眠り、ゴミ箱からカビの生えたパンをあさって貪り食う。そして嘔吐し、差別を受けて極寒の川に落ちる。そこには、いつもの輝いたソン・ジュンギの姿はない。
だが、どんなに身をやつしていても、ソン・ジュンギが持つ天性の品の良さは隠しきれない。ロ・ギワンとして、ソン・ジュンギが脱北者を演じたことで、脱北者が抱える事情や、ヨーロッパでの安楽死などを盛り込んだ本作が注目を浴びたことにより、今後そういったテーマの作品も増えていくかもしれない。
本作は、前半の過酷な展開と、後半の再生へと繋がる物語が、2時間半では物足りなささえ感じさせるほど深く、連続ドラマとしても、濃密で見応えのある作品となったのではないかと思わせられた。
『ロ・ギワン』は、脱北者の悲惨で残酷な現実を映画として観るものに突きつける。脱北者の青年ロ・ギワンが、ベルギーに渡ったからといって、新天地でバラ色の人生が始まるわけではない。世界が持つ暗い側面を目にして、気持ちが沈んだ視聴者も多いのではないだろうか。しかし、重く、シリアスだが、それは実際に世界のどこかで起きていること。ギワンは、マリやソンジュ(イ・サンヒ)と出会ったことで、目的が「生きのびること」から「新しい人生を生きること」へと変わり、小さな希望の光は段々と輝きを増していった。ギワンとともにその軌跡を見た私たちは、観た者の数だけ感情が湧くだろう。筆者は、ギワンがラストに放った言葉に考えさせられ、この作品が世界で視聴され、暗い底にうっすらとでも光が早く、そして強く届くようになればいいなと思わせられた。
参考
※ https://www.cinematoday.jp/news/N0141503
■配信情報
『ロ・ギワン』
Netflixにて独占配信中
出演:ソン・ジュンギ、チェ・ソンウン、ワエル・セルスーブ