『光る君へ』で毎熊克哉が背負う重要な役割 作品世界の中で輝く“ポジティブ”な異質さ
初登場時の直秀は、じつに得体の知れない人物であった。不意にまひろや道長の前に姿を見せるも、その目的がいまいち分からない。彼は歴史上には実在していない本作のオリジナルキャラクターではあるが、紛れもなく存在していた人物だともいえる。当時の世は圧倒的な階級社会。そんな社会を下層部から眺めていた人々が数多くいたわけで、彼ら彼女らの象徴的な存在が直秀だというわけだ。散楽の一員として世の中を風刺しながらも、まひろと道長には心惹かれている。令和の時代を生きる私たちからするとある意味、本作においてもっとも人間らしいキャラクターだといえるのではないだろうか。そう、『光る君へ』の世界と私たちとの橋渡し的な役割を担っているのだ。
これは本作において重要なキャラクターだと断言できる。私たちの多くはそれとなく当時の貴族の様子を知っているはずで、それを見応えあるものに仕上げるのが演出家や俳優陣の役目。ここに、毎熊が演じる直秀という存在をはさむことで見え方は変わってくるし、彼の振る舞いによって作品そのものの手触りも変わってくるのではないかと思うのだ。毎熊が背負うものは非常に大きくて重い。
しかし、本作における毎熊のパフォーマンスは軽快そのもの。前作の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)では1話のみの出演で、その回の主役となるようなポジションだった。つまりは、すでに作り上げられた世界観の中に飛び込み、爪痕を残さなければならない役どころ。力のこもった演技で瞬時に作品の世界観を変容させていたが、今回は違う。物語の軸になっているまひろと道長の関係に対し、絶妙な距離感を維持し続けている。急接近したかと思えば即座に身をひるがえし、つねにフラットな状態で『光る君へ』の世界の中に存在しているのだ。
オリジナルのキャラクターということもあってか、その設定をはじめ突飛なところがあるが、毎熊の演技そのものは地に足の着いたものだと感じる。直秀が自身と同じような身分の者たちを想ういっぽう、どこか浮世離れしているのは、毎熊の演技が時代劇のそれではなく、現代劇的なものだからなのではないだろうか。これがポジティブな異質さとして、『光る君へ』の世界の中で輝いている。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK