『よりもい』『ラブライブ!』にみる花田十輝の脚本術 高まる『ユーフォ』第3期への期待

”青春群像劇”を描く天才・花田十輝の脚本術

 通っている高校が廃校になるかもしれないという危機に、女子生徒がアイドルユニットを結成して「ラブライブ!」という大会に挑み、勝つことで学校の知名度を上げて生徒を増やそうとする。そんな『ラブライブ!』のストーリーの上で、高坂穂乃果というメインヒロインを軸に、様々な事情を抱えた上級生や下級生が加わっていって「μ's」というユニットが結成される展開は、毎回山場があって驚きがあり感動があった。

 第2期の第9話「心のメロディ」は、2016年に開かれたμ'sのファイナルワンマンライブで、東京ドームを白一色からオレンジ一色へと変わるペンライトで染めた名曲「Snow halation」が初披露されるまでのドラマを、スリリングな展開の中に描いてみせた。ライブが成功するかという危機にメンバーが一丸となって挑むストーリーは、『ラブライブ!サンシャイン!!』の第2期第6話「Aqours WAVE」にも登場。メインヒロインの高海千歌がアクロバティックな技を完成させようと努力する姿が、他のメンバーが励ましたり支えたりする展開の中で描かれた。

『ラブライブ!The School Idol Movie』©2015 プロジェクトラブライブ!ムービー

 個々のキャラクターたちについて背景がしっかり語られてきたからこそ、総力が結集して何曲を突破していく展開に説得力があり、感動も生まれる。こうした作劇の妙は、キャラクターたちが南極を目指す『よりもい』でも存分に発揮されている。

 高校に入っても何もやっていないと感じていたキマリこと玉木マリが、南極行きにこだわる小淵沢報瀬と知り合い、集団生活に馴染めずコンビニで働きながら大学を目指している三宅日向も加え、女子高生タレントの白石結月に着いていく形で南極行きを果たす展開は、『ラブライブ!』でも見たものだ。メインキャラが4人ということで、それぞれのキャラが背景も含めてしっかりと描かれていて、そこに自分と重なるところを感じた人を引きつけている。

 さらにもう1人、キマリとは幼なじみの高橋めぐみのキャラクター性が、夢中になることにどこか冷めている人の心を串刺しにする。2月3日放送の第5話「Dear my friend」でめぐみが吐露した心情に揺さぶられて自分はどうだと顧みる。キャラクターの造形と配置の巧みさがくっきりと浮かんだエピソードだった。

 振り返れば、2007年放送の『アイドルマスター XENOGLOSSIA』の頃から既に、花田十輝は多感で多彩なキャラクターたちを造形し、重ね合わせて描いて見る人の関心と共感を誘っていた。アーケードゲームの『THE IDOLM@STER』と同じキャラクターを使いながら、少女たちがアーティストとしてのアイドルを目指すのではなく、「アイドル」と呼ばれるロボットを操り地球を守る「アイドルマスター」となって戦うという、ゲームとはまったく異なる設定とストーリーにしたことで、ゲームのファンが違和感を覚えた作品だ。

 ただ、単体で見れば少女が夢を求めて都会に来て、役割を与えられる中で友情を育み、反発も浴びながら成長していくストーリーが、深いSF的な設定の上で圧巻のロボットバトル描写を伴いながら描かれた作品だった。同じ頃に放送された『コードギアス 反逆のルルーシュ』や翌年放送の『マクロスF』に並ぶ完成度を持ったロボットアニメだ。

 そこには、『響け!ユーフォニアム』や『ラブライブ!』では描かれていない裏切りや憎しみといった強い感情を伴うドラマがあって、シリーズ構成や脚本を手がけた花田十輝の筆が及ぶ範囲の広さを見せてくれている。『よりもい』のめぐみというキャラが醸し出していた“悪意”の源流も見て取れる。それを辿る意味合いも含め、今一度『アイドルマスター XENOGLOSSIA』にも目が向けられてほしいところだ。

参照
※『アニメスタイル007』

■放送情報
TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』
NHK Eテレにて、4月7日(日)スタート 毎週日曜17:00〜放送
キャスト:黒沢ともよ、朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳、戸松遥ほか
原作:武田綾乃
監督:石原立也
副監督:小川太一
シリーズ構成:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子、池田和美
総作画監督:池田和美
楽器設定:髙橋博行
楽器作画監督:太田稔
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:竹田明代
撮影監督:髙尾一也
3DCG監督:冨板紀宏
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
公式サイト:https://anime-eupho.com/

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