『ブギウギ』水上恒司×足立紳の“一本筋”で成立 村山愛助は想像を超えたキャラクターに

『ブギウギ』“一本筋”で成立した村山愛助

 悲しい日が訪れてしまったNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第18週。結核が再発した愛助(水上恒司)が大阪で療養することになり、ひとり残されたスズ子(趣里)は身重ながら新作舞台『ジャズ・カルメン』に挑む。

 心配もあったが、大きなお腹のカルメンは話題になった。スズ子の大ファンである愛助は、病を押して舞台を観たいと願うが、病気は一向に良くならず、むしろ悪化の一途をたどる。スズ子に心配をかけたくない一心で、楽しみ過ぎて風邪を引いてしまったとウソの手紙を書く愛助の強がりが痛ましかった。

左から、村山トミ(小雪)、村山愛助(水上恒司)。 大阪の病院・愛助の病室にて。トミにスズ子との結婚を認めて欲しいと話す愛助。

 刻一刻と予定日が近づいて来る。あいにく舞台は観られなかったものの、出産には立ち会いたいと願う愛助。自分の体のことは自分が一番わかっていると言っていた愛助だから、自分の体がもう回復しそうにないことを知っているはずだ。それでも決して望みを捨てず、弱音を吐かず、スズ子と籍を入れ、子供と3人で生きていく願いをトミ(小雪)に愛助は訴え続ける。

 スズ子はスズ子で、愛助不在を寂しく思いながら、やはり心配かけまいと、明るい内容の返事を書く。そんなだから状況は一向に改善されない。

 なんでこんなにこじれてしまったのか。原因は、トミがふたりの結婚を認めなかったこと一点に尽きる。スズ子の歌手としての才能は認めているトミだが、だからこそ、彼女は歌手を辞めないだろうと考えていた。

 村山興業の跡取りの妻は、自身がそうであったように、会社のために尽力してほしいとトミはスズ子に期待した。トミにとって会社とは家族のようなものであり、皆で一丸となって家を守らないといけない。一度、家族になれば、徹底して守られる。でも、そこには鉄の掟があって、家族は家族のために行動しないといけないのだ。家族とはものすごく優しいし、ものすごくこわい。まるで『ゴッドファーザー』の主人公一家みたいな考え方は古今東西、根強いのである。

 この厳格な家族の掟に、スズ子は別に歯向かったわけではなかった。だったら引退も辞さない気持ちだったが、スズ子の大ファンの愛助がそれを認めなかったのだ。

 スズ子と愛助のモデルである笠置シヅ子と吉本頴右の史実では、頴右が笠置に歌を辞めてほしいと願っていて、笠置もそれでいいと納得していたそうだ。これで八方丸く収まりそうなものだが、なぜかタイミングが悪く、結婚まで至れないまま頴右が亡くなってしまったようだ。

 想像でしかないが、史実の頴右は、家の掟に囚われた旧時代の考えを引きずった人物だったのかもしれない。対して『ブギウギ』の愛助は、家制度の良さと問題点の両面を見極めることのできる、先鋭的な感覚の持ち主として描かれていた。ここが、史実ものではない物語としての『ブギウギ』の良さであろう。

 史実を一部借りながら、『ブギウギ』は、愛助が徹底的にヒロインファーストであり、ひじょうに夢があった。ともすれば、彼は年下のボンボンで、たぶん、マザコンで、スズ子に第2の母的なものを求めていたようにも描かれかねない。

 脚本家の足立紳が書く、オリジナル作品の男性主人公は常に、妻に甘えっぱなしの頼りない人物ばかりなので、愛助もまた、ちゃきちゃきのスズ子におんぶに抱っこの、髪結いの夫みたいな感じの人物になるのではないかと、筆者は当初、想像していた。

 現にスズ子の父・梅吉(柳葉敏郎)はそういう人物として描かれていたから。そのまま梅吉から愛助へと役割がスライドするのではないかと。

 ところが、愛助はそうではなかった。スズ子よりも9歳も年下で、体が弱く、でも大きな夢を持ち、妻になる人物を決して束縛せず、自由に羽ばたかせようとしたのである。先述したように、当時としては不治の病にかかっても、決して弱音を吐かない、精神的に自立した人物として屹立していた。

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