『名探偵コナン』における怪盗キッドの立ち位置とは 『まじっく快斗』から変化した人物像

『名探偵コナン』怪盗キッドの立ち位置とは

 ただ、『名探偵コナン』のシリーズに絡むようになって、怪盗キッドの立ち位置や存在感も、だんだんと変わってきていることは確かだ。『まじっく快斗』の頃は、同級生で幼なじみの中森青子の目を逃れ、青子の父親で先代キッドの頃から捜査を続けて来た中森銀三警部も出し抜いて、盗みを働く活躍ぶりを描くコメディタッチのアンチヒーロー作品だった。絵柄もキャラクターの等身が低く、丸っこくて愛らしさを感じさた。

 これが、1997年に連載中の漫画『名探偵コナン』に登場した時は、不敵な笑みを浮かべ何もかも見透かしたような目を持つクールでキザな怪盗となっていて、豪華客船から宝石を盗みだそうとしてコナンと激突し、痛み分けのような形で対戦を終える。TVアニメでは第76話「コナン vs. 怪盗キッド」として描かれ、劇場公開中のTVシリーズ特別編終版『名探偵コナン vs. 怪盗キッド』でも上映されるエピソード。この怪盗キッドには、学園ラブコメの登場人物のようだった初期の面影はない。

 それは、『まじっく快斗』に、まだ高校生探偵だった工藤新一が登場した1999年掲載の「ブラック・スターの巻」前後編にも言える。アニメでは、公開中の『名探偵コナン vs. 怪盗キッド』で上映される、TVシリーズの2時間スペシャル「集められた名探偵! 工藤新一 vs. 怪盗キッド」に該当するエピソード。時計台から宝石を盗みだそうとする展開の中で、怪盗キッドがスパイ映画のようなスリリングなアクションを見せてくれる。

 黒ずくめの組織という殺人も辞さない集団に追われているというシリアスな設定や、毎回のように人が殺されコナンが解決するという甘くない展開を持った『名探偵コナン』の世界に登場する上で、怪盗キッドの立ち位置も、クールなものにならざるを得なかった。その立ち位置は、『まじっく快斗』の世界にも持ち込まれ、漫画としての絵柄やキャラクターとしての雰囲気を変え、宝石ばかり狙う泥棒という設定も立った。そんなところだろう。

 そして現在、『名探偵コナン』が青山剛昌作品でもっとも認知度が高く、人気もあってファンの数も多い作品になっている中で、怪盗キッドも『名探偵コナン』の世界の登場人物のひとりになってしまった感がある。仕方がないところだが、だからといって灰原哀や黒ずくめの組織、安室透に赤井秀一といったキャラクターの後塵を拝していいということはない。コナンの唯一無二のライバルとして並び立ってほしいところだ。

 そうした意識は作者の青山剛昌にも、アニメの作り手にも多分あって、映画の『名探偵コナン」シリーズでも怪盗キッドは度々メインキャラクターとして登場し、コナンと対決したり共闘したりといった活躍を見せてくれる。最近では、2015年公開の映画『名探偵コナン 業火の向日葵』で、ゴッホの名作「ひまわり」がすべて日本に集まるというストーリーの上で大活躍を見せる。もしも怪盗キッドがいなかったら、世界の至宝は永遠に失われてしまったかもしれない。

 2019年の映画『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』では、工藤新一に変装して毛利蘭とシンガポールに旅行するという大胆不敵な行動を見せ、江戸川コナンとしてすら側にいられない本物の新一を悔しがらせる。さすがは怪盗キッドといったところだが、『紺青の拳』ではもうひとり、京極真という空手の達人も絡んで、コナン、怪盗キッドと三つ巴の関係になる。京極のファンには嬉しい映画だったが、怪盗キッドの見せ場は当然に薄くなる。真の恋人で怪盗キッドのファンの鈴木園子だけが、大喜びの展開だったかもしれない。

 それでも、怪盗キッドがフィーチャーされていたことでファンも喜び、前年の映画『名探偵コナン ゼロの執行人』の91億円を上回る当時としては最高の93億円の興行収入を稼ぎ出した。この記録は、赤井ファミリーが勢揃いした2022年公開の映画『名探偵コナン 緋色の弾丸』に97億円で上回られ、そして『紺青の拳』の立川譲監督が再び立った『黒鉄の魚影』によって一気に差を付けられた。怪盗キッド好きとしてこれはやはり一大事だ。

 だからこそ、『100万ドルの五稜星』には怪盗キッドのファンの意地が問われる。西の高校生探偵として数々の事件に江戸川コナンといっしょに挑んできた服部平次も加わることで三つ巴の戦いになりそうだが、その中でも怪盗キッドが抜きん出てくれることを、ファンは願っているだろう。平次のファンも同様。もちろんコナンも。そうしたファンの結束と、超人気剣士の土方歳三を支持するファンの参入が、映画『名探偵コナン』シリーズの興行記録を塗り替え、100万ドル(約1億4800万円)どころか1億ドルの興行収入を稼いで『黒鉄の魚影』超えを果たすのか。

 4月12日の公開が楽しみだ。

■公開情報
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(100まんドルのみちしるべ)』
4月12日(金)より、全国東宝系にてロードショー
原作:青山剛昌
監督:永岡智佳
脚本:大倉崇裕
音楽:菅野祐悟
キャスト:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、山口勝平(怪盗キッド)、堀川りょう(服部平次)
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館、読売テレビ、日本テレビ、ShoPro、東宝、トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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