『サムダルリへようこそ』ヨンピル&サムダルの愛が成就 輝かしい未来が示された最終回
Netflixで韓国ドラマ『サムダルリへようこそ』全16話が配信された。
済州島・ハルラ山のふもとにある村、サムダルリを舞台にした本作は、チョ・ヨンピル(チ・チャンウク)とチョ・サムダル(シン・ヘソン)の恋の行方を中心に、困難に直面した人たちがそれを乗り越えていく様を描いていく。
最終話が配信され、ヨンピルとサムダルが8年前に別れた原因をはじめとして、サムダルのパワハラ疑惑など、物語の要となった出来事がきれいに回収された。心温まるヒーリングドラマが私たちに伝えようとしたことは何だったのだろうか?(以下、ネタバレあり)
ヨンピルとサムダルの一途な愛
ヨンピルとサムダルは、お互いに想い合いながらも、ヨンピルの母、プ・ミジャの死が原因で引き裂かれていたことがわかった。悪天候の中サムダルの母、コ・ミジャ(キム・ミギョン)が無理に海に潜り、それに付き合ったことでヨンピルの母は命を落としたのだ。
ヨンピルの母とサムダルの母は親友同士だった。名前も同じ「ミジャ」で、海女として共に働き、2人とも当時の人気歌手、チョ・ヨンピルの大ファンということもあり、姉妹のように仲良くしていた。ヨンピルとサムダルが生まれてからは、お互いが2人の母親になろうと誓い合い、家族ぐるみで仲良く付き合っていた。
しかしヨンピルの母が亡くなると、事態は一変した。事故が起きたのはサムダルの母のせいだと責めるヨンピルの父、サンテ(ユ・オソン)が、心を閉ざしてしまったからだ。サンテは「どうせすぐ別れるだろう」とヨンピルとサムダルの付き合いを黙認していたが、やがてサムダルに対し「ヨンピルと別れてほしい」と懇願し、2人を引き裂いてしまう。
サムダルは決して済州島・サムダルリを嫌っていたわけではなく、近所に住んでいるヨンピル一家と顔を合わせてしまうことを恐れて帰りたくても帰れなかったのだ。ソウルで仕事に没頭するしか選択肢がなかったサムダルは、さぞかし辛かったことだろう。仲良しだったサンド(カン・ヨンソク)、ギョンテ(イ・ジェウォン)、ウヌ(ぺ・ミョンジン)とも連絡を絶ち、ヨンピルを忘れるために孤独の中で血のにじむような努力をしていたのだ。
一方でヨンピルも心を閉ざしたままの父親と暮らしながら辛い日々を送っていたが、サムダルとは少し違っていた。売れっ子写真家となったサムダルを取り上げるメディアをくまなくチェックし、展示会が開催されれば足を運んだ。もちろんサムダルに会うことは避けていたが、サムダルを忘れようとしていたわけではなかった。
サムダルリに戻ったサムダルは、やはり自分にとってヨンピルはかけがえのない人だと分かり、自分の気持ちに素直になる。そしてサムダルの気持ちをヨンピルが受け止めたことで2人はよりを戻す。しかし別れていた8年間、必死になってヨンピルを忘れようと努力したサムダルと真逆だったヨンピルに、サムダルは驚きを隠せなかった。
なぜ忘れようとしなかったのかと問うサムダルに「特別な人だから」と言い切るヨンピル。心にグッとくるシーンだった。2人には乗り越えなければならない壁があり、愛を成就させるのは決して平坦な道ではなかったが、何があってもお互いが“小川”となり支え合おうとする姿に、涙がこぼれた。
つらい経験を乗り越えるサンテたち
『サムダルリへようこそ』には、過去につらい経験をした人々がたくさん登場する。そしてそれぞれ、その悲しみをどのように乗り越えていったのかを丁寧に描いている。
まずは最愛の妻を亡くしたヨンピルの父、サンテだ。若い頃からプ・ミジャを一途に想い続け、押しの一手で結婚した。プ・ミジャが亡くなってからのサンテは、誰かを強く恨まなければ、生きる活力が生まれなかったのかもしれない。
恨む対象となったのが、サムダルの母、コ・ミジャとその家族だった。家の前を通るときは睨みつけ、バスの運転手をするサムダルの父、パンシク(ソ・ヒョンチョル)が運転するバスには乗ろうとしない。そしてヨンピルがサムダルとの思い出の品を隠し持っているのを知ると、勝手に捨ててしまおうとする。
サンテのつらさは分かるのだが、あまりにも頑なで身勝手な行動に腹立たしくなったのは筆者だけではないだろう。しかしヨンピルをはじめとして、サンテの周りの人たちは、腫れ物に触るようにサンテと接し、数々の横暴な行為を許容してきた。そのため妻が亡くなって20年経っても、サンテは前に進むことができなかったのだ。
そんな状況を一気に変えようとしたのが、サムダルの母、コ・ミジャだ。親友だったプ・ミジャを自分のせいで亡くし、サンテに謝り続けた20年間だったが「つらいのはあんただけじゃない! 私もミジャに会いたい!!」とサンテの前で号泣し、自分の素直な気持ちをぶつけた。
それまで静かにひざまずいてきたミジャの豹変ぶりに驚くサンテだったが、これが20年間、過去に縛られ続けてきた2つの家族が未来に進むきっかけとなったのだ。
サンテは自分が悲しみ続けなければ、愛する妻、プ・ミジャがサムダルリで海女として生きていたことを忘れ去られてしまうと思い込んでいた。それは、誰もがサンテに気を遣ってプ・ミジャの話をしなくなったからだろう。親友だったコ・ミジャは、プ・ミジャを思い出すのがつらくて、大好きだったチョ・ヨンピルのレコードを押し入れの奥にしまい込んでいたほどだ。
しかしサンテは、コ・ミジャが気持ちをぶつけてきたことで、妻、プ・ミジャを大切に想い、今でも忘れずにいる人がいることを思い知った。そして悲しみの深さは誰も同じだとようやく気付いたのだ。
サンテもコ・ミジャも悲しみに向き合い、乗り越えて前に進もうと思ったきっかけはヨンピルとサムダルだった。自分たちの息子と娘が、何があっても愛し合っていくことを決意したことで、2人も過去の呪縛から逃れるための方法を見つけた。
サンテの頑な態度は、観ていてなかなか厳しいものがあった。「ヨンピルとサムダルは、永久にサンテに認められないのでは……」と思った人も多いだろう。深い悲しみに直面した人の心の闇は、決して簡単に取り除けないことを丁寧に描いた脚本だったと感じた。