『アイのない恋人たち』福士蒼汰の“寂寥感”に釘付け 現代人共感必至の孤独な登場人物たち
いつでも、どこでも、誰とでも触れ合えるスマートフォンの時代。そんな中で、「人と繋がるのは、なんでこんなに難しくなったんだろう」と、久米真和(福士蒼汰)の内なる声が心に深く響く。そこにあるのは、簡単に手に入るはずの繋がりの影にひそむ孤独だ。恋愛において不器用なまま大人へと成長した男女の、切なくも愛おしい物語『アイのない恋人たち』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が幕を開けた。
真和は、33歳の独身で未だ名を馳せない脚本家。数年前に受賞した新人賞以来、たとえ大きな実績を残せずとも、変わらぬ情熱を胸に日の当たらない「人々に生きる勇気を与える物語」を書き続けてきた真和。彼は今日も、自らの過去の栄光にすがりながら、目立たない日々を過ごしていた。
そんな真和は高校の時に、同級生の淵上多聞(本郷奏多)と郷雄馬(前田公輝)と、15年後の未来での“再会”を約束をしていた。しかし、約束を果たすドラマチックな瞬間……は訪れない。それでも彼らの空気が決して悪くならないのは、3人が真の意味で気兼ねなく心を許した親友だからなのだろう。
思っていた形とは違ったものの、再会を果たした3人はそれぞれ違う道を歩んでいることを知る。多聞は成功したビジネスマン、雄馬は安定した公務員として生計を立てていたが、共に独身で恋人もいない。真和自身も恋愛に関しては消極的で、マッチングアプリでの短期的な出会いに頼っていた。彼ら3人は、それぞれ“アイ”(「愛」「見る目」「自分」)という欠けた要素を抱えながら、日々を過ごしている。ここで、タイトル『アイのない恋人たち』の意味が浮かび上がる。一見、「愛がない」というテーマのラブストーリーのように思えたが、タイトルに込められた異なる“アイ”の意味が突き刺さった視聴者もいるのではないか。
本作に登場する“アイのない”人物は、この3人だけではない。まずは、真和が運命的な出会いを果たした稲葉愛(佐々木希)。彼女は高校時代、学校のマドンナとして名を馳せた、真和の初恋の人でもある。しかし、アラサーになった今、音楽を愛し「ピアノの他には何もいらない」と言っていた彼女の影はすでに消えていた。レンタル彼女やクラブのホステスとして働きながら、一時的な恋愛や酒に身を任せる生活を送っている愛の変化に、真和はガックリと肩を落とす。彼女の名前もまた「アイ(愛)」というのも気になるところだが、これは今後の真和と愛の関係性にかかってくる所なのかもしれない。
一方、「ありのままの自分」を受け入れてくれる真実の“アイ”を見つけるべく、合コンに足を運んだ雄馬。しかし、参加メンバーに予想外のトラブルが続き、近藤奈美(深川麻衣)と2人で話すことになってしまう。そしてこの奈美もまた、結婚に焦り、“アイ”に悩みながら生きている人物だった。
奈美は、社会的な圧力やSNS上の報告によって結婚への焦りを感じていると語る。私自身もアラサーであるため、この感覚は痛いほど理解できる。もちろん全ての人に当てはまるわけではないことは前提だが、アラサー女性の集まる場で“アイ”にまつわるテーマが中心となることはそう珍しくない。「結婚は幸せへの鍵」という考えが古くなりつつある中、今村絵里加(岡崎紗絵)と冨田栞(成海璃子)は、それぞれの視点でこの風潮に異を唱えるが……。結婚や恋愛、すなわち“アイ”に悩んでいるのは、彼女たちも同じだった。
31歳で恋愛経験のない絵里加は、会社員を辞めてブックカフェを運営している。ローンの支払いや家族の問題に直面しつつ、恋愛や結婚に関してはある種の諦めを感じていた。だが、同世代で積極的に婚活をしている奈美の姿が、絵里加に変化をもたらす。
気軽な気持ちでマッチングアプリに登録した絵里加は、意外と早く相性の良い人を見つける。初デートに緊張しつつ向かうと、なんとそこには真和の姿があった。