『傷物語』3部作をなぜいま再構築? プロデューサーに聞く『物語』シリーズの凄さ
原作・西尾維新の“言葉の強さ”
――ここから『物語』シリーズが再認識されるきっかけになると思います。
石川:西尾維新さんもデビューから20年が経ち、『物語』シリーズのアニメも15周年といった時間が経ちました。これまで『物語』シリーズというものを、聞いたことがあっても観たことはなかったアニメファンもいらっしゃると思います。そうした方がここから触れていっていただけると嬉しいです。ここから先の展開もいろいろとできたらいいといった思いもあるので、ファンの声が次の力になるといった感じです。
――改めて『物語』シリーズの魅力、そして『傷物語』の面白さを伺いたいと思います。キャラクターの個性であったりストーリーの面白さであったり伝わってくるメッセージの深さであったりと、さまざまな楽しみ方ができるシリーズだと思いますが。
石川:100人いたら100人違う感想を持っていただいた方が、むしろ良いんだろうなと思っています。どんな人にも観てもらいたいですし、どう受け取ってもらっても構いません。僕自身は『化物語』を観て、こんなカッコよくて面白いものがあるんだって知ってこの業界に入りました。普段アニメを観ないような人が見ると、すごく新しい体験になる作品ですので、そういった人も含めてたくさんの人に見てもらえる機会になればいいなと考えています。
――特にどの層に観てほしいということではないんですね。
石川:届くのだったら老若男女の誰にでも届いてほしいです。騙されたと思って1回観てって感じです。めちゃくちゃおもろいですから。
――『物語』シリーズのカッコよさですが、これはシリーズを最初に手がけた新房昭之監督のスタイルが出ていると言えるのでしょうか?
石川:当然、新房監督のフィルムとして見たときに『化物語』には新房監督らしさがありますが、シリーズディレクターの尾石さんらしさもすごく入っていて、その二大巨頭が両立している希有なフィルムだと僕は思っています。あとは原作の西尾さんが出してくるセリフの強さもありますね。西尾さんが作られた言葉の強さは他の作品にはないものだなと思っています。
――そんな西尾さんが生み出したキャラクターの魅力に、演じた神谷さんたち役者の魅力も乗ってカッコよさが増していった感じがします。
石川:キャラも魅力的でしたし芝居もそうですし主題歌もそう。あとは尾石監督や新房監督のベースにあるフランス映画なり1960年代から80年代のカッコ良い映像作品との融合感もあると思います。尾石監督から話をうかがっている中では、1960年代から80年代の映画がベースにあるんです。『化物語』をやっていた頃はジャン=リュック・ゴダールに傾倒していたと言っていましたね。60年代のゴダール。あとはスタンリー・キューブリックで、『傷物語』の予告を作る時も、『シャイニング』の予告のようなものを作りたいと話していました。エレベーターの前にある廊下に血がブワッと流れてくるあの予告です。めちゃめちゃカッコいいけどアニメでは無理ですねえといった感じでした。
――『シャイニング』を知らない人が観たら何が起こっているんだろうとしか思われない可能性がありますからね。
石川:尾石監督は、理路整然としたものが好きだといつも話していますね。それが『化物語』の自転車だったり、駐車場に並ぶ車だったり羽川が傘を差して歩く団地に現れたりしています。
――ただ、『傷物語-こよみヴァンプ-』ではそうしたイメージショットの畳みかけによって不思議な空間へと引きずり込む感じを抑え気味にして、キスショットと暦の関係という部分を見せようとしている印象があります。
石川:そういう意味では、純度の高いものになったと思います。キスショットと暦の出会いの話は、作品としてもこのフィルムを構成する要素としても非常に大きな部分で、やはりそこに落ちていく話とになると思うので、ぜひ観ていただきたい部分です。僕自身は地下鉄での暦とキスショットの出会いのシーンがすごく好きなんです。暦が「僕がお前を助けてやる――僕の血を吸え」と言うところは本当にカッコいい。ぜひ劇場で観てもらいたいですね。
――『傷物語』3部作の時は、地下鉄とか学習塾のモデルにされた場所を観に行く人も現れました。そういった“現象”も再燃する可能性がありますね。
石川:いろいろな楽しみ方ができる作品です。今回はエンディングテーマも新録で、新たにボーカルも録っていただいています。8分という非常に長いエンディングテーマなんですが、これも『傷物語』を構成する世界のひとつだと思っているので、これも劇場ならではの音響で聞いてもらえると嬉しいです。
■公開情報
『傷物語 -こよみヴァンプ-』
公開中
キャスト:神谷浩史、坂本真綾、堀江由衣、櫻井孝宏、入野自由、江原正士、大塚芳忠
原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
監督・脚本:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫・守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前暁
アニメーション制作:シャフト
配給:アニプレックス
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
公式サイト:https://www.kizumonogatari-movie.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/nisioisin_anim