『ビヨンド・ユートピア 脱北』が教えてくれる生半可ではない現実 想像を超える脱北の道
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、インフルエンザにかかってしまい寝正月を過ごした橋本が『ビヨンド・ユートピア 脱北』をプッシュします。
『ビヨンド・ユートピア 脱北』
“脱北”という言葉を聞いて何を想像するだろうか。私が最初にこの言葉を聞いた時に思い浮かべたのは、北朝鮮から川を渡り韓国に密入国をするというようなことだった。確かに間違ってはいなかったのだが、本作を観ると、そんな生半可なことではなく、北朝鮮脱北者の過酷な旅の実態が生々しく記録された恐るべき姿に言葉を失ってしまった。本作は全てが命懸けで撮影された貴重な作品なのである。
本作は2つの大きなテーマで構成されている。1つは見どころである北朝鮮から脱北する2つの家族の姿を追っていく記録映像だ。韓国から今まで1000人以上の脱北者を助けてきたキム・ソンウン牧師の電話には、日々何件ものSOSの連絡が入る。北朝鮮から中国へ渡り、山間部で路頭に迷うロ一家の脱北を助けてほしいというものだった。
ロ一家は幼い子供2人と80代の老婆を含めた5人もの人間を一度に脱北させなくてはならない困難な状況だった。家族はタイを目指すために北朝鮮から、中国、ベトナム、ラオスと国境線を超える過酷な旅に出ることとなる。
一方、韓国で暮らす脱北者のリ・ソヨンは、息子のチョンを脱北させるべくブローカーと頻繁に連絡を取っていた。刑務所に収監された後に脱北した彼女は、もう何年も息子の顔を見ていない。いよいよ脱北決行の日がやって来るが、チョンは中国で突然消息を絶ってしまう。
国境を越えるうえで重要なのがブローカーの存在だ。ロ一家の脱北にも50人以上のブローカーが関与しているという。彼らの存在は謎に包まれているが、お金を払い雇う形で依頼者の国境を越える手助けをしてくれる存在だ。本作における映像の多くもブローカーの協力によって撮影されている。しかしそんな彼らも本当に信用できる存在かは怪しい。詐欺行為をされる場合もあるし、裏切られて国側に通報される可能性もある。しかし違法な方法で国を越えなければならないので、ブローカーに頼るしかない現実が映像を通してまざまざと見せつけられる。実際にリ・ソヨンの息子チョンは脱北決行の日にブローカーに裏切られ中国当局に通報、身柄を拘束されてしまうという悲劇的な状況に陥ってしまう。