2023年の年間ベスト企画
今祥枝の「2023年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 ネットワークスタイルへの回帰傾向
飽和状態の大量の作品群とビンジウォッチングに疲弊した視聴者(筆者も含む)は、昔ながらの週1のリリースで、良質のロングランシリーズを楽しみたいと考える傾向は以前から指摘されていた。近年の主流である1シーズンが6話程度のシリーズが量産されるよりも、作品数は減っても1シーズンの話数が多く、シーズンを重ねながらなじみのシリーズを週1ペースで楽しみたい。そうしたネットワークスタイルへの回帰傾向をVarietyなどがデータで示している(※)が、肌感覚としても理解できる。12月にNetflixが発表した「Netflixエンゲージメントレポート:What We Watched」の『ナイト・エージェント』、『ジニー&ジョージア』、韓国ドラマ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』といった上位作品からも読み取れるのではないだろうか。コロナ禍で大作映画やそのクオリティの作品を家で鑑賞することに慣れたとしても、結局のところこの種の作品に安定した人気があることは注目に値する。もちろん、このデータだけでは測れない作品の価値もある。重要なことは、良いか悪いかではなく、全体としてここまで書いてきたような傾向、空気が業界内外にあるという点だ。
実際のところ、2023年は私自身にもそういった傾向が少なからずあった。ピークTV時代の最高峰の作品を享受しながら、比較的ストレートな物語かつダイレクトに心に訴える作品(西部劇、韓国ドラマに多かった)、原点回帰と言える作品(全話配信されていないので外したが最高に楽しい『ファーゴ』S5、直球のフェミニズム作品)、『窓際のスパイ』S3などに代表される王道かつ良質の娯楽作に強くひかれた。
特に、いかにもアメリカTVのお家芸ともいうべき怒涛の会話劇でみせる『ザ・ディプロマット』には、こういうドラマが昔から好きなんだよなあと再認識。そういう意味では『一流シェフのファミリーレストラン』S2は物語に過酷さもあるが、総じて今年の自分の気分にマッチした作品だった。『メディア王』S4の完璧さは言わずもがなで、これがピークTV時代の最高峰であることは間違いないが、自分にとってのベストはシーズン3だったかなと思う。ランキングには入れられなかったが『アッシャー家の崩壊』や『マーダーズ・イン・ビルディング』S3も娯楽として大いに楽しんだし、アニメーションシリーズの『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』には驚かされた。
それにしてもハリウッドの作品数が減っただのなんだのという前に、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』があった今年こそ観ておきたかった『Reservation Dogs(原題)』(これが真の1位かも)は上陸しないまま完結してしまった。ドラマファンならそれぞれに言いたいことはあるだろうが、『Mrs.Davis(原題)』や『Perry Mason(原題)』S2などの自分が好きな他の作品も未上陸。これほどまでに多くの海外作品があふれかえっているというのに、不思議だなあ。
参照
https://variety.com/vip/end-of-strikes-is-just-the-beginning-hollywood-new-era-1235792101/
https://variety.com/vip/why-end-of-prestige-tv-era-could-benefit-everyone-1235749746/
■配信情報
『一流シェフのファミリーレストラン』シーズン2
ディズニープラスのスターにて独占配信中
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