『ムービング』が“地に足をつけた”ドラマとなった理由 スーパーヒーロー作品との類似点

『ムービング』とヒーロー作品の類似点

 『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、『イカゲーム』が世界的なブームになったことから、さまざまなタイトルが熱視線を浴び続けている韓国映画、ドラマ業界。この度、シーズン1が配信中の『ムービング』もまた、スケールの大きな期待作として注目を集めているシリーズだ。

 韓国のデジタルコミック「ウェブトゥーン」を原作とした本シリーズは、超能力バトルと青春ラブストーリー、ファミリードラマをかけ合わせた、盛りだくさんの内容でありながら、これらの要素がそれぞれに結びつくことで魅力を発揮する、特徴的なものとなっている。ここでは、そんな『ムービング』の根幹にあるものが何なのかを考えていきたい。

 ウェブトゥーンは携帯端末で読むことに特化した、縦スクロール、フルカラー形式の漫画を指し、韓国では印刷物のコミックと並ぶほどの地位を確立しているという。韓国や日本でドラマ化されて話題を呼んだ『梨泰院クラス』も、ウェブトゥーン作品が基となっている。『ムービング』の原作者Kang Fullは、そんなウェブトゥーンの草分け的存在として知られている。自分のウェブサイトで漫画を発表することで独自に人気を集めた彼は、ウェブトゥーンのプラットフォーム「カカオ」で商業的な成功を得て、数々の映像作品の原作ともなった。彼の漫画の魅力は、予想を超えるような発想による物語にある。本シリーズは、そんな原作者自身が脚本を担当していることで、その手腕を堪能することができる。

 物語の一つの軸は、主人公キム・ボンソク(イ・ジョンハ)の高校3年生の日々。彼は感情が昂ることで身体が浮いてしまう、特異な体質を持っていた。唯一の家族である母親(ハン・ヒョジュ)に、小さな頃からそれを隠したままで生きていくように指示されていているボンソクは、他人の目があるところで浮き上がらないように、アンクルウェイトや重しを入れたバックパックを身につけて登校し、体重を重くするために大盛りの食事をとっていた。

 イ・ジョンハはボンソクを演じるため、なんと30kgもの増量をして撮影に挑んだのだという。役に合わせた体重の激しい増減は、ハリウッドでもよく見られてきた演技へのアプローチの一つだが、健康上、身体に大きな負担をかける行為であり、いまそういった俳優の努力を手放しで賞賛することは難しいところがある。また、もともと役に近い体型の俳優にチャンスを与えるのが、道義上妥当であるともいえる。一方で、イ・ジョンハはもともと愛嬌のあるところが魅力の新進の俳優であるため、母の愛と料理を受け取って育ってきた高校生ボンソクという役には、ぴったりだというのも確かなことだ。

 そんな、まだまだ母に甘えているボンソクは、転校生の少女チャン・ヒス(コ・ユンジョン)に心奪われてしまう。彼女の前ではどうしても気持ちが昂ってしまい、ボンソクは何度も宙に浮かびそうになる。まるで条件反射で尻尾を振ってしまう犬のような愛らしさだ。また、真面目な学級委員長のイ・ガンフン(キム・ドフン)もヒスに恋愛感情を持って対抗し始めるなど、彼らの学校生活を描くストーリーは、超能力ラブコメの様相を呈していく。

 興味深いのは、恋愛をしながらも日々受験対策をおこなうなど、彼らがかなりハードな高校生活を送っているということだ。この背景には、大学受験がその後の人生を決めてしまうとまで言われる、韓国の厳しい受験事情がある。日本に比べても進学率が高い韓国では、幼い頃から大学受験に照準を合わせ努力している学生が多いため、日々の生活に対する意識も違ってくる。そんな状況下においてヒスは、リュ・スンリョン演じる父親のチキンの店がうまくいっていないために学費を心配し、志望を変えてまで大学に受かろうと、日々努力を続けることになるのだ。同じ高校生のドラマでも、韓国と日本ではそういった面で違いが出てくることになる。

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