『時をかけるな、恋人たち』は実にパーフェクトなドラマだった 最終話での名台詞の数々
航時法違反として未来からやってきた監査に捕らえられ、記憶を剥がされることになる翔(永山瑛太)と廻(吉岡里帆)。翔が未来へと戻って行った後に“フォゲッター”に座った廻だったが、気が付くと記憶はまだ残ったまま。それは翔の指示で八丁堀(シソンヌ・じろう)がフォゲッターを無効化させていたからであり、和井内(石田剛太)と天野(伊藤万理華)も知ってのこと。「忘れるのもつらいですけど、忘れさせるのもつらいですから」という天野の言葉は、“記憶”をひとつのカギとしたこの物語においてこれ以上ない金言であろう。
前回淡い期待を抱いた通りの展開から始まった、12月19日放送の『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)最終話。まず言ってしまえば、第1話からの一定したリズムを維持しつづけ、コメディとラブストーリーの絶妙なバランスを崩すこともなく、中盤での大きな方向転換も巧みに機能させて最後まで駆け抜ける。前回のような大胆な伏線回収エピソードも入れ込みながら、最後の最後まで急展開に急展開を重ねる。
まさかのリリリー(夏子)が諸星(ラランド・ニシダ)と結ばれることで(第7話でのオチがまさかこのようなかたちで繋がってくるとは)、過去人と未来人の恋愛を歴史的に正当化するにとどまらず、それが和井内の生い立ちにまで波及。さらに誰もがそうであると予期していた“マギー&キケロ”の存在を思い出したように廻&翔本人たちに気付かさせるという小気味良いフィナーレに、第1話の序盤のシーンへと回帰させる大胆な構成。さすがは上田誠の脚本であり、山岸聖太の演出も期待に違わぬ腕前だ。
それはそうとして、今回は先述の天野の金言も然り、ひたすら心に染み入るような名台詞が次々と飛びだしていたのが最終話の印象深いところ。特に和井内。過去に戻ろうとも、妻が病気で亡くなる未来を変えることができないことを理解している彼がぽつりとつぶやく、「何のためにあるんだろうなって思うよ、タイムトラベル」。そして天野からもらったパピコを手に、「いまもどっかの時間で一緒に食ってる」の言葉。考えてみれば、23世紀から令和にやってきた彼は、妻が生まれる前の時間を生きている。その切ないパラドックスは、第5話に登場したバッドトラベラーの思いと通じるものがある。
廻が脱獄して令和に戻ってきた翔に言う、「いつかのことより今を大事にしよう」というこの物語の主題ともいえる言葉も然り。過去の積み重ねのうえに今があって、今は常に過去に変わりながら未来に向かって進んでいくけれど、結局すべては相対的な関係でしかなく、絶対的な今があるからこそ過去も未来も存在している。それはタイムトラベルがSFの世界でしかない現代においては当然のことであるし、おそらく23世紀にタイムトラベルが可能となっても変わらないのであろう。SFとしてもコメディとしても、ラブストーリーとしても、実にパーフェクトなドラマであった。
■配信情報
火ドラ★イレブン『時をかけるな、恋人たち』
TVer、FODにて配信中
出演:吉岡里帆、永山瑛太、伊藤万理華、西垣匠、田中真琴、夏子、石田剛太、じろう(シソンヌ)
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
監督:山岸聖太、山口淳太
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
音楽:王舟
主題歌:Chilli Beans.「I like you」(A.S.A.B)
オープニング曲:PEOPLE 1「ドキドキする」(Sony Music Labels)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:www.ktv.jp/tokikake/