『いちばんすきな花』は人間関係の“淀み”を見逃さない 美鳥の“4人と自分1人”が突き刺さる

『すき花』は人間関係の“淀み”を見逃さない

「5人は違うのかも。5人は楽しかったよ。楽しかったし、嬉しかった。みんなで会えてよかった。でも、5人じゃなかった。4人と自分1人……」

 それぞれ2人で会ったときは心地よいのに、その好きな人たちが集まってグループになった途端になんだか居心地が悪くなる。そんな人間関係のちょっとした淀みのようなものを見逃さないところが、今この時代に『いちばんすきな花』(フジテレビ系)が注目される大きな理由ではないだろうか。

 ゆくえ(多部未華子)、椿(松下洸平)、夜々(今田美桜)、紅葉(神尾楓珠)と順に、1人ずつ再会を果たしていった美鳥(田中麗奈)。「相変わらずだね」と何度も口をついて出るのは、それだけ当時の関係性を思い出せるほど打ち解けた時間を過ごせた証とも言える。

 ゆくえにとっては、親しみやすく気の合う塾講師。だから、ゆくえと2人で会ったときには、美鳥のノリも軽くなる。赤田(仲野太賀)を呼びつけて「何、お前! スーツとか着ちゃって!」なんてツッコむのもそう。そして、2人のフリに合わせて、カラオケに行く流れになるのもそう。そこには、何度となくやりとりされてきた会話のテンポがある。なんターンか言葉をやりとりするだけで、すぐにタイムスリップをしたも同然の時間が流れるのだ。

 一方、椿にとっては学校では見せない顔をお互いに明かし合った秘密の友達。一方的な暴力で傷が絶えなかった美鳥を気遣っていたあのときの感覚が蘇るのだろう。落ち着いたトーンでそれぞれの思いをひとつずつ丁寧に言葉にしていく。その会話には、時々どこまで踏み込んでいいのかを探り合っているような場面さえ感じられる。とても「何、お前!」なんて椿に対してツッコむところは想像ができない。

 それは、夜々に対してもそうだ。夜々にとって、美鳥は過干渉気味な母親への複雑な思いを理解してくれる優しい従姉妹。美鳥と過ごしているときには、家族とこんな距離感で過ごせたらよかったのに、と何度も思ったに違いない。そして、それは美鳥にとっても同じだったように思う。お互いに少しだけ弱音を吐いて甘えることもあるけれど、最後はほんのちょっと背中を押し合って。その温かな時間は、2人とも親との血の繋がりに悩まされながらも、やはり血縁関係という心強さも同時に感じさせてくれるものだったはず。

 そして、4人の中で最も美鳥の印象が異なったのは紅葉だった。紅葉から見た美鳥が、いつも不機嫌そうにイライラして気難しい先生だったのは、学校というもともと好きではない場所で働いていたこと。そして、その時期は後に離婚することになる結婚生活で苦悩していたからだと察する。それゆえに“いい先生“を取り繕う余裕もなく、紅葉と本音でぶつかりあった。今は当時のような刺々しさはなくとも、椿の家で塾を再開したら「遊びに行っていいですか?」と言う紅葉に「やだよ」なんて憎まれ口を叩いてみせるのも、きっとあの時代の美鳥を知っている紅葉の前だからこそ。

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