朝ドラ『ブギウギ』草彅剛が表現した羽鳥の静かな怒り 六郎のための楽曲「大空の弟」
羽鳥を訪ねたスズ子は力なくこう言った。
「ワテ……もう、あきまへん。歌おう思たら六郎のことやら、いろいろ浮かんで喉が詰まるんです」
「ワテにはもう歌もない」
まともに歌えなくなってしまったことで、スズ子は自分には“歌もない”と思うほど追い詰められていた。しかし羽鳥はそんなスズ子に新しい歌を手渡すのだった。「大空の弟」と名付けられたその歌は、スズ子が話した六郎への思いが詰まった歌だった。
「六郎君の歌だ。これなら歌えるんじゃないか?」
羽鳥はスズ子に微笑みかけていた。物語冒頭でも、スズ子の心に寄り添い、彼女の複雑な胸中を理解しているようだった羽鳥は、スズ子を苦しめるものが歌そのものではないことを知っている。音楽に向き合う者たちの感性を大事にしている羽鳥は、今のスズ子の心情だからこそ歌える音楽を作り上げることで、スズ子を励ましている。りつ子ならではの言い回しがスズ子を鼓舞するように、心の底から音楽を楽しみ、愛する羽鳥だからこそできる激励だ。
羽鳥の思いはスズ子に届いている。旋律に耳を傾けるスズ子の表情は、これまでのように自身の悲しみや苦しみを無理に押し殺すものではない。複雑な顔つきには、スズ子が六郎との楽しかった思い出にも、死という現実にも向き合うさまがうかがえた。スズ子は「ええ歌ですね」と呟く。六郎を思う歌が、スズ子を少しずつ前へと歩ませることだろう。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK