水木一郎さんの歌声をいつまでも 特集『アニメソング界の帝王 水木一郎』放送に寄せて
アニメ、特撮ソングの分野で活躍した歌手・水木一郎さん。小さなライブハウスから大規模なコンサート活動を多彩にこなす一方、民放の音楽番組やバラエティ番組の数々に出演し、巧みなトークとユニークなキャラクターでお茶の間にも親しまれた。2022年7月に肺がんの闘病中であることを公表しながら、夏以降もステージに立ち続け、同年12月6日に逝去するまで生涯現役を貫いた歌手である。
水木一郎さんは1968年に歌謡曲「君にささげる僕の歌」でデビューを果たすものの、レコードの売り上げは伸び悩んだ。業種の転向を考えていた時期に、石ノ森章太郎原作の新番組『原始少年リュウ』の主題歌を歌わないかと日本コロムビアからの誘いを受ける。特撮ヒーローものもアニメーションも全てまとめて“テレビまんが”と呼ばれていた時代に、歌謡界からテレビまんが主題歌の世界に入ってきた水木さんだったが、以前より抱いていた映画主題歌を歌いたいという願いの一端が実現することとなる。これ以降、東映特撮ヒーロー作品『超人バロム・1』『変身忍者 嵐』や、東映動画(現・東映アニメーション)作品『マジンガーZ』『バビル2世』などのオープニング(以下、OP)、エンディング(以下、ED)テーマを次々と担当していった。
1970年代中盤から後半にかけて水木さんの活躍は特に目覚ましい。特撮ブームに乗って制作された『ロボット刑事』『イナズマン』、そしてロボットアニメ『グレートマジンガー』『鋼鉄ジーグ』など、後々のライブ活動で持ち歌になるような代表曲に巡りあう。特に70年代中期に主題歌を担当した『仮面ライダーX』『超電磁ロボ コン・バトラーV』『宇宙海賊キャプテンハーロック』の各OP曲は、作品自体の人気も相まって水木さんの代表曲となり、その後も数十年にわたってイベントやライブで歌い続けるヒットソングになっている。
同世代のアニメ&特撮ジャンルの歌手といえば、ささきいさおさん、堀江美都子さん、子門真人さん、かおりくみこさんも忘れがたいが、中でも水木さんは擬音を歌詞として叫んだり、作品名(=ロボット名)をパンチのある声で格好良く決める“雄叫び”の歌唱スタイルを確立した点が大きい。このインパクトの強さを自身の武器として、「OTAKEBI」と題したベストアルバムを2枚リリースしたほどだ。
80年代アニメブーム隆盛の中、様々なレコード会社から多くのアニソン歌手がデビューしては静かに活動を終えていった中、水木さんは実に50年間も精力的に新曲とアルバムを発表し、晩年は車椅子に乗りながら後輩歌手たちと同じ舞台に立ち続けた。これを偉業と呼ばずして何であろうか。
どんな人の中にも、少年時代または少女時代に、水木一郎さんが主題歌を歌った番組に触れたことがあるだろう。その水木さんの一周忌にあわせて『一周忌メモリアル【アニメソング界の帝王 水木一郎】』と題した特集が東映チャンネルで放送されることになった。2011年と2014年に収録された貴重な映像の中から、水木さんの魅力をたっぷり味わえる楽曲がズラリと並ぶ。