『パリピ孔明』を成立させた向井理、上白石萌歌、森山未來の存在 続編の可能性にも期待!
一方、敵に寝返ったと思われたKABE太人だが、それは多くの人が予想していた通り孔明が考えた作戦の一環だった。間者として前園陣営に送り込まれたKABE太人は、サマーソニアで余興の一つとして披露した前園とのMCバトルで、彼がイースト・サウスを金で買収し、自分の楽曲を作らせていることを暴露。突然のことに反論すらできない前園を前に、会場のファンは「騙されてたってこと?」とザワつき始める。その通り、彼がファンを裏切り続けていたことに間違いはない。作詞・作曲・振り付け全てを自らこなすスーパーアーティストとして自らの価値を高めながら、実際は他人の才能に頼り切りだったのだから。けれど、そのことで前園が真に裏切り続けてきたのはイースト・サウスに憧れ、彼らのようにオリジナルの曲で多くの人の心を動かしたいと願った青春時代の自分自身だ。
それは良い暮らしと引き換えに、才能を前園に売ったイースト・サウスの南房(休日課長)と東山(石崎ひゅーい)も同じ。 彼らにだって、自分たちの音楽を奏でる歓びに満ちていた日々があっただろう。でも、生きていくためにはお金が必要なのに音楽で食べていくのは難しいから、不本意だけど確実な道を選ぶか、はたまた夢そのものを諦めるかという二択に流されてしまうのも分からなくはない。KABE太人やミア、英子の晴れ舞台を観に来てくれた七海(八木莉可子)もそうだったのだと思う。けれど、誰もが英子の歌を聴き、自分を取り戻すことができた。英子の歌には青春時代の光景や当時の気持ちを鮮明に思い出させる力があるから。そのある種のプルースト効果を一番実感しているのが、孔明だ。英子の歌を聴くたびに、なぜかいつも劉備(ディーン・フジオカ)たちと天下泰平を目指していた頃の記憶が蘇る。だからこそ、イースト・サウスの二人にも英子の新曲「Time Capsule」のデモテープを贈った。その歌が前園の呪縛から彼らを解き放ってくれると信じて。
予想は的中し、表舞台に戻ってきたイースト・サウスは英子とともにステージで「Time Capsule」を披露。2人のアレンジやKABE太人のラップパートも効き、会場は大いに沸く。かたや味方だったはずの全員から見放されてしまった前園。そんな彼に孔明は「非学無以廣才、非志無以成学(学ばなければ才能を高めることはできず、志がなければ学ぶことができない)」という言葉を贈る。その裏では、英子と憧れのシンガー・マリアが歌う「I’m still alive today」が流れていた。前園は孔明陣営に敗北を喫したが、なにも命まで取られたわけではない。間違いに気づいたのなら、生きている限りはいつでも引き返せる。
夢と現実との間でもがき苦しみながらも、音楽の世界で生きていこうとする人々の情熱を描いた本作。案外、中国三国時代に天下泰平のために戦っていた武将たちと近しい部分があるのかもしれない。アーティストたちが戦っているのは常に自分自身だが、その泥臭い戦いの末に生み出された音楽が私たちの耳に届く。音楽業界が多大なダメージを受けたコロナ禍を経た今だからこそ、強く思う。音楽は不要不急なんかじゃない。
トリッキーな設定だが、細部までこだわった演出により見応えのある音楽青春群像劇となった。またこのドラマを本格たらしめていたのは、やはりメインとなる向井理、上白石萌歌、森山未來の存在だろう。三国志に登場する孔明本人と三国志オタクである小林の軽妙なやりとりと、グッと場を締める芝居とのバランスも良く、上白石の聴く人の心揺さぶる圧巻の歌唱力なくしては成り立たなかった。孔明の元の世界に戻る戻る詐欺に思わずズッコケそうになったが、ある意味これで続編の可能性も残されたということ。さらなる高みを目指す彼らにまた会える日を楽しみに待ちたい。
■配信情報
『パリピ孔明』
TVer、FODにて配信中
出演:向井理、上白石萌歌、菅原小春、宮世琉弥、八木莉可子、森崎ウィン、関口メンディー、アヴちゃん(女王蜂)、ELLY、ディーン・フジオカ、森山未來ほか
原作:『パリピ孔明』四葉夕ト(原作)、小川亮(漫画)(講談社『ヤングマガジン』連載)
脚本:根本ノンジ
企画:髙木由佳(フジテレビ)
プロデューサー:八尾香澄
演出:渋江修平ほか
音楽:近谷直之
制作協力:C&Iエンタテインメント
制作著作:フジテレビ
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