新作『ヴォルーズ』ではアクションコメディに挑戦 “俳優監督”メラニー・ロランの歩み

“俳優監督”メラニー・ロランの歩み

 “監督”メラニー・ロランの特徴の1つに、若手女優の起用と新境地開拓がある。『呼吸―友情と破壊』ではジョセフィーヌ・ジャピとルー・ドゥ・ラージュを抜擢。『欲望に溺れて』ではマリア・バルベルデ、『ガルヴェストン』ではエル・ファニングを子役出身から大人の俳優へと脱皮させ、イメージを一新。後者の作品では新進リリ・ラインハートを登場させるタイミングも完璧だった。そして監督第6作となる歴史劇『社会から虐げられた女たち』で、ルー・ドゥ・ラージュと再びタッグを組む。『呼吸―友情と破壊』から7年、ドゥ・ラージュは堂々たる主演女優へと成長していた。

 俳優としてのフィルモグラフィ同様、監督作でも好奇心に満ちた作品選びを続けているロラン。それでも監督第1作以後は役者と監督の兼任を控えてきた。『社会から虐げられた女たち』は“俳優”メラニー・ロランにとっても大きな転換点となる作品だ。1885年のフランスを舞台にした本作は、ドゥ・ラージュ演じる主人公ウジェニーが精神病院に閉じ込められる。自立心旺盛で周囲にも臆することなく物申す女性は、この時代において“狂人”扱いをされる。ロランは精神病院の婦長ジュヌヴィエーヴ役で登場。妹との死別の痛みを抱えながら、理不尽な医療に従事し続けるジュヌヴィエーヴは、ヒロインとは対称的に身体の自由を得ながらその精神は抑圧されている。ジュヌヴィエーヴの心の解放に近年のフェミニズムの時流を見出した力作で、ロラン自身もキャリアを更新する名演だった。

『ヴォルーズ』Netflixにて独占配信中

 そんなロランの監督最新作『ヴォルーズ』がNetflixで配信されている。今回はなんとアクションコメディ。余裕が出てきたのか、再び監督と出演を兼任。主演には『アデル、ブルーは熱い色』のアデル・エグザルコプロスを迎え、アクション女優へと開眼させている。ロランはエグザルコプロスに溺愛とも言うべき惚れ込みようで、凛々しい狙撃シーンから刺客との意表を突く屋内格闘シーンまで、あらゆる見せ場を譲っている。中盤からメンバーに加わる逃がし屋サム役のマノン・ブレシュもロランらしいフレッシュな配役で、ぜひとも名前を覚えておきたいところ。

 ロラン演じるキャロルと、エグザルコプロス扮するアレックスはキャッツアイよろしくな泥棒コンビ。今回もスイスの山荘からダイヤモンドを盗み出し、足を洗ってカタギになることを夢見る。しかし元締め(まさかのイザベル・アジャーニが降臨)が許してはくれない。追い詰められた彼女らは命じられるがまま、最後のヤマに挑む。

『ヴォルーズ』Netflixにて独占配信中

 タランティーノとマイケル・ベイを経由したロランだけあって、バイオレンスには深刻になりすぎないユーモアが同居。これまでも撮るべきショットを心得てきたが、ハリウッドの現場を渡り歩いた経験を活かしてスケールの大きい画作りを実現している。それでいてリュック・ベッソンのようなハリウッドナイズの大味さではなく、往年のアラン・ドロン映画を思わせる小粋さと翳りのフレンチテイストをブレンド。やや筋運びがもつれる部分はあるものの、ヒロインたちのシスターフッドが活気づく愉快な娯楽映画に仕上がった。自身の映画作家としての資質を見極めるかのようにジャンルを飛び歩くメラニー・ロラン。アナウンスされている新作『The Nightingale(原題)』の主演はなんとダコタとエルのファニング姉妹。次なる傑作への準備は整ったか。期待して待ちたい。

■配信情報
『ヴォルーズ』
Netflixにて独占配信中

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