『呪術廻戦』虎杖悠仁にとって“大人”であり続けた七海建人 その存在の意味深さを考える

『呪術廻戦』七海建人の存在が大切な理由

 五条も「若人から青春を取り上げるなんて」と常々口にするように、“子供”と“大人”の区別に対して意識的なキャラクターだ。しかし彼よりも直接的にフォローしたり、“子供”に“大人”として何か言ってあげられるのは七海かもしれない。学生時代、同級生の灰原雄を亡くし、先輩の夏油傑が離反した。その環境から一度逃げ出し、一般企業に就職して社畜になった七海。寝ても覚めても金のことだけを考えていたのは呪いとも他人とも無縁でいられる方法だったから。そんな理由からも、どれだけ灰原の死にショックを受けていたのかが窺えて切ない。もう周りの人が肉体的にも精神的にも傷つくことにも耐えられない。だから繋がりを絶った彼は、ある日行きつけのパン屋で“人助け”をする。「ありがとう」と言われた時に気づいた、自分の内に潜む正義感と生きがい。

 「幼魚と逆罰」のラストで、ある意味で傲慢とさえ言えてしまう「正しい死」という観念に固執していた虎杖に、初めて迷いが生じる。そこで七海は「そんなこと私にだって分かりませんよ」と返しながら彼に「世の中の多くの人は善人でも悪人でもない」こと、ゆえに「存在しない“同じ死”を全て正しく導くことはきっと苦しいこと」を説いた。善人でも悪人でもない、というのは彼が尊敬していた先輩の夏油のことを思ってのセリフだろう。高いモラルを持っていた彼と、それゆえに苦しんだ彼。公式ガイドブックで、作者の芥見下々は夏油が呪詛師になったことに対し七海は「責める気にはなれない」でいることを解説している。それというのも、善人ゆえに苦しんだ夏油の気持ちが七海には理解できたからだろう。虎杖に対し、正しく導くことが“間違っている”など否定的な言葉ではなく“苦しい”という言葉を使ったところにも、七海の優しさが滲み出ている。七海は、優しいのだ。そして呪術師に向いていないくらいに、“狂っていない”。重面との対峙で怪我をした釘崎と新田を椅子に座らせて、自分は地面に片膝をついていた姿が印象的だったが、彼は『呪術廻戦』という作品における「善」であり、傷つき悩む虎杖にとって必要な“大人”なのだ。

 しかし、皮肉にも七海が言ったように虎杖は大人になろうとするのではなく、着実に小さな絶望を重ねながら大人になってきてしまっている。かつて改造人間を殺めた時に「人殺し」ではなく「呪術師」と呼んで指標を与えてくれた七海が、今の……そしてこれからの虎杖に必要だ。

■放送情報
TVアニメ『呪術廻戦』第2期
MBS/TBS系にて、毎週木曜23:56~放送
キャスト:榎木淳弥、内田雄馬、瀬戸麻沙美、中村悠一、島﨑信長、櫻井孝宏、諏訪部順一、三瓶由布子
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:御所園翔太
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史、小磯沙矢香
副監督:愛敬亮太
美術監督:東潤一
色彩設計:松島英子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:石川大輔(モンスターズエッグ)
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:照井順政
音響監督:えびなやすのり
音響制作:dugout
制作:MAPPA
「渋谷事変」オープニングテーマ:King Gnu「SPECIALZ」(Sony Music Labels)
「渋谷事変」エンディングテーマ:羊文学「more than words」(F.C.L.S./Sony Music Labels)
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://jujutsukaisen.jp

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