『大奥』瀧内公美の心から溢れ出た“ありがとう” 正弘の愛情で“翼”を手に入れた家定
一方で胤篤のほうも水戸徳川家の一橋慶喜(大東駿介)を次期将軍の座に就かせるという使命を与えられており、当初は戦略的に家定を自分の懐に取り込もうとしていたのかもしれない。だが、冷静で客観的な視点からこの国の行く末を考える家定の見識に触れるうちに彼もまた気づかされる部分は多かったのだろう。そうして2人の間にあった壁は取り払われ、心と心の距離はどんどん近づいていった。そんな家定と胤篤の姿は、まさしく正弘が目指している未来の人と人の姿であったのではないだろうか。
しかし、その未来を待たずして正弘は病に倒れる。家定が作ったカステラを持って見舞いに訪れた瀧山の、弱り切った正弘を見る充血した瞳がその悲痛な心の内を映し出していた。かたや自分の死期を悟ってもなお、いつもの穏やかな笑顔を絶やさない正弘だが、悔しくないはずはない。まだこれからという時に翼を折られ、志を遂げることができぬ無念を正弘は瀧山に打ち明ける。だが、胤篤から勧められた散歩の習慣により健康体を取り戻し、陽の下で乗馬に興じる家定の姿を見た瞬間、正弘の表情が一変した。その優しく慈愛に満ちた眼差しは母が子を見るときのものだ。瀧山が「あの素晴らしい上様は伊勢守様がお作りになられたのです」と言った通り、今の家定があるのは実の親に代わり正弘が注いでくれた愛情のおかげである。その愛情で自由に空を飛ぶ翼を手に入れた家定の姿を見て、正弘はようやく自分の人生を美しい物語にすることができた。
「ありがとうございました、上様。私と巡り会ってくださって」
正弘を演じる瀧内曰く、このセリフは実のところ台本にはなく無意識に出てきたものだという(※1)。また同シーンについて、家定を演じた愛希も「集中して気持ちを作るまでもなく涙が溢れてきて、本当に家定が正弘に対して思ったであろう感情がそのまま湧き出てきました」と振り返っている(※2)。2人を少し遠くから見守る瀧山の姿も含め、血のつながりを超えて心を通わせた3人の思いが凝縮された別れの場面は生涯忘れられぬものとなるだろう。
参照
※1. https://www.cinematoday.jp/news/N0139995
※2. https://cinema.ne.jp/article/detail/52187
■放送情報
ドラマ10『大奥』Season2
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
出演:
【医療編】
鈴木杏(平賀源内)、玉置玲央(黒木)、村雨辰剛(青沼)、岡本圭人(伊兵衛)、中村蒼(徳川家斉)、蓮佛美沙子(御台・茂姫)、安達祐実(松平定信)、松下奈緒(田沼意次)、仲間由紀恵(一橋治済)
【幕末編】
古川雄大(瀧山)、愛希れいか(徳川家定)、瀧内公美(阿部正弘)、岸井ゆきの(和宮)、志田彩良(徳川家茂)、福士蒼汰(天璋院・胤篤)
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
音楽:KOHTA YAMAMOTO
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社