『たとえあなたを忘れても』揺れ動く“美璃”堀田真由の心 記憶の一部が戻った“空”萩原利久
忘れたままの方が幸せな過去を思い出させてしまうことは、“残酷なこと”なのだろうか。そんな大きな問いを我々に投げかけてきた『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の第4話。「傷つきたくないんやろ?」という冒頭の沙菜(岡田結実)の言葉が、今回のエピソードのテーマを物語っていた。
空(萩原利久)からのキスを受けた美璃(堀田真由)は、愛される喜びよりも、いずれ忘れ去られるだろう予感の辛さで胸が痛み、抑えきれない涙を流す。空が慰めようとしても、「あなたは一度、私のこと忘れてる。二度目がないって、どうしてわかるの?」と、美璃は悲痛な心をあらわにして詰め寄ってしまう。
友達関係に留まれば、以前のように傷つくことはない。そんな葛藤の中で、美璃の心は揺れ動く。そんな美璃の繊細な心情を察して、沙菜は2人で空を見守ることを提案する。恋人ではない、特別な“友達”の距離で十分。それは、空をずっと守ってきた沙菜が、自分の心を守るために選んだ手法と言えるのかもしれない。
一方、美璃を傷つけてしまったと感じる空は、記憶を取り戻すための治療に興味を示す。「なんか、知りたくなったんや。自分のこと」という彼の言葉には、誰かのために自分自身を理解したいという願いが滲んでいるように思えた。しかし、空の過去を知る沙菜は、彼の変化を前向きに受け止めることができずにいる。第4話のラストで明らかになったその理由は、空にとって“思い出さない方が良い”記憶だったから。もちろん、美璃はそんなことを知る由もなく、空のためを思って彼の記憶を取り戻そうと奔走する。
「愛する人のために何かをしてあげたい」という想いは誰にだってあるはずだ。しかし、その行為が本当に本人の幸福に繋がるのかは、考えさせられるものがある。これはあくまで考察の域を出ないが、美璃は本当の意味でその人のためになることを考えるよりも「寄り添ってもらえること」を幸福と捉えているようにも感じられた。
それはおそらく、美璃自身が誰かに寄り添い・寄り添われて幸福を感じてきたからなのだと思う。“お母さんが喜ぶ”からとピアノを頑張ってきた美璃に、「美璃がピアノ弾き続けてきたのは、お母さんのためだったのかな?」と優しい言葉をかける保(風間俊介)。この言葉から伝わってくるのは、保が美璃のピアノに対する情熱を支える温かな気持ちだ。しかし、それはある意味では彼女のことを肯定し、背中を押してくれる誰かが常に近くにいたことの表れでもある。「大切な人が前に進む(記憶を思い出す)」ことすら本人の幸せを思ってブレーキをかけてきた沙菜と美璃とでは、そもそも生きてきた環境が大きく異なるのである。